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TORENDIA

現代の詐術

本文約12,400字 ・ 読了時間 約25分

あらすじ(AIが作成しました)

戦争により日常生活が逼迫した日本において、隣組による行列の奪い合いを中世の「座」の再現と捉え、窮すれば人間は徒党を組んで縄張りを争う存在に還ることを論じる。戦争前はカミシモという秩序をまとっていた日本社会の実態が、実は古くから道義が形骸化した中世そのものであったと断じ、敗戦後の混乱においても自らの罪を自覚せぬ善人や官僚の欺瞞を批判する。自らを罪人であると自覚することこそが、中世的な蒙昧から脱却する第一歩であると説く評論である。

坂口安吾

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私は戦争まえまではヤミという言葉を知らなかった。知らないということは情ないことで、私の青年期はヨーロッパでは前大戦後の混乱をへて、どうやら立ち直りかけたころ、ニュースに文学にインフレや道徳の混乱はウンザリするほど扱われていたが、戦争と死、戦争と陰謀、そんなことは考えてみても、インフレとヤミ、戦争になると百姓がもうかる、小説でよんでもピンとこない。全然読まないと同様、素通りしていたようなものだ。文学だの人間だの、人間探究のと云いながら、そして、戦争という大きないくつかの事件に就て史書をよんだりしながら、戦争の裏側の人間生活にヤミという奇怪な取引関係がつきまとっていることを想像すらもできなかった。

大化の改新によって口分田という制度ができた。すると脱税や使役をのがれるために戸籍をごまかしたり、逃亡をやり、税のかゝらぬ寺領や貴族領へのがれたり、または私田を寄進したりする。こうして荘園が栄え、貴族栄花の時代が起り、農民は又、さらに脱税のために管理者とケッタクして、武家時代をもたらしたという。

そういう歴史を読みながら、戦争まえの私には、やっぱり激しくひびかない。

中世に座というものが起った。猿楽座とか銀座もたぶんもとはその意味であろうが、職業組合みたいなもので、つまり自分らの権利を他からまもる同業者の徒党的結成であり、この土地は自分らの販売の縄張りというものを一方的に勝手につくって、それを侵害する他の業者を迫害する。

こう書くとまるで無頼漢の徒党と同じことで、あっちのマーケット、こっちのマーケット、みんな縄張りがある。パンパンガールにまで縄張りがある。こういう風に言うと、職業組合をヨタモノの縄張りとはと怒る人があるかも知れない。私も昔はこんな風に悪くは解釈しておらぬ。こういう中世の組合はマルクス先生の資本論という本などにも頻りに現れる言葉であるから、私も襟を正して謹聴し、かりそめにもヨタモノ的結合などゝ邪推したためしはなかった。

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