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TORENDIA

イオーヌィチ

本文約22,200字 ・ 読了時間 約45分

あらすじ(AIが作成しました)

S市の教養ある一家として知られるトゥールキン家は、主人の冗談、妻の小説朗読、娘のピアノ演奏など各々が一芸を持つ。郡会医となったドミートリイ・イオーヌィチは、この家族と交際を始め、娘に恋心を抱くようになる。やがて時が経ち、医師は孤独な生活の中で以前の面影を失った気難しい人物へと変貌する。一方、一家は相変わらずの日常を送り、交流した人々のその後を対照的に描く物語である。

アントン・チェーホフ Anton Chekhov

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一

県庁のあるS市へやって来た人が、どうも退屈だとか単調だとかいってこぼすと、土地の人たちはまるで言いわけでもするような調子で、いやいやSはとてもいいところだ、Sには図書館から劇場、それからクラブまで一通りそろっているし、舞踏会もちょいちょいあるし、おまけに頭の進んだ、面白くって感じのいい家庭が幾軒もあって、それとも交際ができるというのが常だった。そしてトゥールキンの一家を、最も教養あり才能ある家庭として挙げるのであった。

この一家は大通りの知事の邸のすぐそばに、自分の持家を構えて住んでいた。主人のトゥールキンは、名をイヴァン・ペトローヴィチといって、でっぷりした色の浅黒い美丈夫で、頬髯を生やしている。よく慈善の目的で素人芝居を催して、自身は老将軍の役を買って出るのだったが、その際の咳のしっぷりがすこぶるもって滑稽だった。彼は一口噺や謎々や諺のたぐいをどっさり知っていて、冗談や洒落を飛ばすのが好きだったが、しかもいつ見ても、いったい当人がふざけているのやら真面目に言っているのやら、さっぱり見当のつきかねるような顔つきをしていた。その妻のヴェーラ・イオーシフォヴナは、瘠せぎすな愛くるしい奥さんで、鼻眼鏡をかけ、手ずから中篇や長篇の小説をものしては、それをお客の前で朗読して聴かせるのが大好きだった。娘のエカテリーナ・イヴァーノヴナは妙齢のお嬢さんで、これはピアノに御堪能だった。要するにこの一家の人たちは、みんなそれぞれに一技一芸の持主だったわけである。トゥールキン家の人々はお客を歓迎して、朗らかな、心から気置きのない態度で、めいめいの持芸を披露に及ぶのだった。彼らの大きな石造りの邸はひろびろしていて、夏分は涼しく、数ある窓の半分は年をへて鬱蒼たる庭園に面していて、春になるとそこで小夜鶯が啼いた。お客が家の中に坐っていると、台所の方では庖丁の音が盛んにして、玉ねぎを揚げる臭いが中庭までぷんぷんして――とこれがいつもきまって、皿数のふんだんな美味い夜食の前触れをするのだった。

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