1 / 9

「ヴォローヂャが帰ってきた!」と誰かがおもてで叫んだ。

「ヴォローヂャちゃんがおつきになりましたよ!」と、食堂へかけこみながら、ナターリヤが叫んだ。「ああ、よかった!」

かわいいヴォローヂャの帰りを、今か今かと待っていたコロリョーフ家の人びとは、みんなわれがちに窓べへかけよった。車よせのところに、幅の広いそりがとまっている。三頭立ての白い馬からは、こい霧がたちのぼっていた。そりは、からっぽだった。というのは、早くもヴォローヂャが玄関さきにおり立って、赤くかじかんだ指さきで頭巾をほどきにかかっていたからだ。彼の中学生用の外套も、帽子も、オーバーシューズも、こめかみにたれさがった髪の毛も、すっかり霜をかぶって、頭のてっぺんから足のさきまで、そばで見ている者のほうがぞくぞく寒けがしてきて、思わず、≪ぶるるる!≫と言いたくなるような、すばらしくけっこうな寒さのにおいをはなっていた。お母さんとおばさんは、さっそくヴォローヂャにだきついてキッスをした。ナターリヤは、かれの足もとにかがみこんでフェルト靴をぬがせ始め、妹たちは金切り声をあげた。あっちこちの扉がきしみ、ばたんばたんと音をたてた。その中を、ヴォローヂャのお父さんが、チョッキすがたで手にはさみを持ったまま玄関へかけてきて、びっくりしたように叫びだした。

「きのうから、みんな待ってたんだよ! 途中、変わったことはなかったかい? ぶじだったんだね? どれどれ、ひとつ親子の対面をさせてもらおうか! はてな、わしは父親ではないのかい!」

「わん! わん!」と、ひどくからだの大きな黒犬のミロールドが、しっぽで壁や家具をたたきつけながら、太い声でほえた。

ものの二分ばかり、あたり一面わあっという喜びの声に包まれた、その喜びのあらしがおさまると、コロリョーフ家の人びとは、ヴォローヂャのほかに、もうひとり、えりまきや頭巾をつけて、やはり、霜をかぶった少年が玄関にいるのに気がついた。彼は、すみのほうの、大きなきつねの外套が投げかけている影の中に、身動きもしないで、じっと立っていたのだ。

アントン・チェーホフ Anton Chekhovの他の作品

イオーヌィチ
アントン・チェーホフ Anton Chekhov
犬を連れた奥さん
アントン・チェーホフ Anton Chekhov
かき
アントン・チェーホフ Anton Chekhov
カシタンカ
アントン・チェーホフ Anton Chekhov
かもめ
アントン・チェーホフ Anton Chekhov
可愛い女
アントン・チェーホフ Anton Chekhov
頸の上のアンナ
アントン・チェーホフ Anton Chekhov
アントン・チェーホフ Anton Chekhov
決闘
アントン・チェーホフ Anton Chekhov
大ヴォローヂャと小ヴォローヂャ
アントン・チェーホフ Anton Chekhov
小波瀾
アントン・チェーホフ Anton Chekhov
接吻
アントン・チェーホフ Anton Chekhov