可愛い女
本文約15,400字 ・ 読了時間 約31分
あらすじ(AIが作成しました)
退職八等官の娘オーレンカは、常に誰かを愛していないと生きていられない性質の女性である。彼女は、遊園地の経営主や材木商と結婚しては、その夫の仕事や考えに深く同調し、夫の価値観をそのまま自分のものとして生きる生活を送る。夫たちを亡くして孤独になった彼女は、やがて縁あって預かることになった中学生のサーシャに注ぐ愛情を生きがいとし、彼の学校生活や将来のことばかりを考えて日々の喜びとする様子を描く。
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オーレンカという、退職八等官プレミャンニコフの娘が、わが家の中庭へ下りる小さな段々に腰かけて、何やら考え込んでいた。暑い日で、うるさく蠅がまつわりついて来るので、でももうじき夕方だと思うといかにもうれしかった。東の方からは黒い雨雲がひろがって来て、時おりその方角から湿っぽい風が吹いていた。
中庭のまんなかにはクーキンという、遊園『*ティヴォリ』の経営主と持主とを一身に兼ねて、やはりその屋敷うちの離れを借りて住んでいる男がたたずんで、空を眺めていた。
「またか!」と彼は捨てばちな調子で言うのだった。「また雨と来らあ! 毎日毎日雨にならないじゃ済まないんだ――まるでわざとみたいにさ! これじゃ首をくくれというも同然だ! 身代限りをしろというも同然だ! 毎日えらい欠損つづきさ!」
彼はぴしゃりと両手を打ち合せると、オーレンカの方を向いて言葉をつづけた。――
「つまりこれなんでさ、ねえオリガ・セミョーノヴナ、われわれの渡世って奴は。まったく泣きたくなりまさあ! 働く、精を出す、うんうんいう、夜の目も寝ない、ちっとでもましなものにしようと考えづめに考える、――ところがどうです? 一つにはまずあの見物で、これが無教育で野蛮と来ている。こっちじゃ一生懸命粒よりのオペレッタや、夢幻劇や、すばらしい歌謡曲の名人を出してやるんだが、それが果してあの手合いの求めるものでしょうか? 奴らにそんなのを見せたところで、果して何かしら分かってくれるでしょうかね? 奴らの求めるのは小屋掛けの見世物なんでさ! 奴らにゃ俗悪なものをあてがいさえすりゃいいんでさ! さてお次は、まあこの天気を見て下さい。晩はまずきまって雨と来ている。五月の十日から降り癖がついて、それから五月、六月とぶっ続けじゃ、お話にも何にもなりませんよ! 見物はまるで来ない、だが私の方じゃちゃんと地代を納めるんじゃないですか! 芸人の払いもするんじゃないですか?」
あくる日も夕方ちかく又もや雨雲がひろがって来たので、クーキンはヒステリックな笑い声を立てながら言うのだった。――