一 行儀がわるい
まるできつねみたいな顔つきをした一匹の若い赤犬が――この犬は、足の短い猟犬と番犬とのあいのこだが――歩道の上を小走りに行ったりきたりしながら、不安そうにあたりをきょろきょろ見まわしていた。赤犬は、ときどき立ちどまっては、泣きながら、こごえた足をかわるがわる持ちあげて、どうしてこう道にまようようなへまなことをしでかしたんだろうと一生けんめい考えた。
赤犬は、自分がどんなふうに、きょう一日を暮らし、どうして、しまいにこの見知らぬ歩道へまよいこんだのか、はっきりおぼえていた。
たしか、きょうが始まったのは、主人のさしもの師ルカー・アレクサンドルィチが、帽子をかぶり、赤い布切れに包んだ、何か木製品をこわきにかかえて、――
「カシタンカ、行こうぜ!」
と呼んだ、あのときである。
自分の名まえが呼ばれたのを聞くと、カシタンカは、今までかんなくずの上でねむっていたが、仕事台の下から、ごそごそはいだしてきて、さも気持よさそうにぐっと一つのびをしてから、主人についてかけだした。ルカー・アレクサンドルィチのお得意さきは、みんな、おそろしく遠いところにあったので、そのうちの一軒にたどりつくまでに、さしもの師はなんども居酒屋へよっては、ぐっと一ぱいひっかけて、元気をつけなければならなかった。カシタンカは、その道々、自分はずいぶん行儀がわるかったのを思いだした。散歩につれて行ってもらえるのがうれしかったので、ぴょんぴょんとびはねたり、鉄道馬車にほえついたり、よその家々の庭さきへはいりこんで、そこの犬を追いまわしたりしたのである。さしもの師は、しょっちゅうカシタンカのすがたを見うしなっては立ちどまり、ぷりぷりしながらどなりつけた。一度なんか、今にも食いつきそうなこわい顔つきで、カシタンカのきつねのような耳をひっつかみ、ぐいと引っぱって、とぎれとぎれにこんな悪たいをついたりした。
「くた……ばり……やが……れ、……この……コレラやろうめ!」