こほろぎの死
本文約2,400字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
印刷工場を解雇され負傷したこほろぎは、街で冷たい水を浴びて意識を失う。目覚めた場所は蜂が院長を務める慈善病院だったが、入院料を払えないこほろぎは診療を拒否され、外へ追い出される。同じ病院で働く病弱な芋虫や調合ミスを犯す尺取虫らとともに、過酷な社会の情景が浮かび上がる。蜂は金持ちの鈴虫の治療に向かうが、そこで自身の振る舞いと薬の過誤を露呈し、救済という名の下にある偽善と社会の冷酷さを描き出す。
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ある日、うす寒い秋でしたのに、一匹のこほろぎが単衣を着て、街へ仕事をさがしに出掛けましたが、此間までつとめてゐた印刷工場で足の上へ重い活字箱を落としてけがをして首を切られ、けがをした足は益々ふくれるばかりで、どこにも雇ひ手はありませんでした。夕方になつたのか身体中が寒くなつたので家へ帰りかけますと、突然頭の上に、汚い冷い水が一杯浴びるやうに掛つたと思ふと、気が遠くなつて、倒れてしまひました。
気が付いて見ると病院の診察台の上に寝てをりました。傍に院長のまだら蜂が立つてゐて、
「気がついたか? お前は何処の何者だ? 風邪ひきと、丹毒といふ熱病だ。大分よくないから入院だ。入院料は一日二円五十銭だがあるかね?」
こほろぎはお金がないのでびつくりして帰らうとしましたがぐつたりして起き上ることも出来ないので
「私はお金がないんですが、先生、足が立たないので帰れませんから休まして下さい。」
「君一人の病院ぢやないんだ。一人を只で置いたら、みんな只でおかねばならなくなる。病院にはいるのに入院料がいる位の事は子供でも知つてることだ。それにお前はキリスト教信者ぢやないだらう。」
「何だかひどく苦しくて堪りませんからもう一二時間休ませて下さいませんか。」
「一二時間? もう三十分もすると、わしは街へ伝道に行かねばならないから、待つてやれない。帰り給へ。君よりももつと重い病気でも、我慢してゐる人間はいくらでもあるんだ。」
院長は、玄関番の芋虫に、こほろぎを外に連れて行くやうに言ひつけました。芋虫は門の日の射さない所にしやがんで一日中下駄の出し入れをしてゐるので、黴菌と埃を吸ひ込んで肺病になつて竹のやうに真青な顔をして足は脚気といふ病気のためにふくれ上つてゐるので、五あしに一度はころびさうになりました。そして、こほろぎを診察台から下さうとしましたが、身体中がしびれて力が出ないのでした。院長はじりじりして、
「早くやれ、時間がないんだ。仕様のない弱虫だな。薬局生の尺取虫を呼んで来い。」