本文へ移動
TORENDIA

断想

本文約1,500字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

理性によって運命を統禦した末の「自殺」こそ望むと語り、絶望のうちにも消えぬ希望に苦しみながら、孤独と法悦の間を揺れ動く病床の心情を綴る北條民雄の随想。

北條民雄

速度
🎧 断想 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 3

自殺を覚悟するとみな一種の狂人か、放心状態に陥る。これが僕には不快なんだ。ただただ不快なんだ。さういふ状態になつて自殺するのは決して自殺とは言へないんだ。それは殺されたのだ。病気に、運命に、殺されたのだ。僕は自殺を希んでゐるけれど、殺されるのは断じて嫌だ。僕は自殺したいんだ。死の瞬間まで、自己をじつと見つめて、理性で一切を統禦する時、初めて「自殺」は可能なのだ。それは理性によつて運命を、病気を、征服したことなんだ。勝つにはこれ以外にない。

どんな、どん底の人間だつて希望は残つてゐる。さう、それは正しい。どんなどん底の人間も希望を失ふことが出来ないのだ。それが生命の、いのちある証拠なのだ。判るか、俺の言ふことが――。人間は生きてゐる限りこの希望といふ生物を背負ふべき宿命をもつてゐるのだ。だが、さう言つたからつて、どうして人生が明るいと言へるんだ。どうして幸福だと言へるんだ。

俺は希望を憎悪する。俺は希望に、希望あるが故に、苦しみ悶えてゐるのだ。ああ俺が、全き絶望に陥ち込むことが出来たらなあ、その時こそ、俺は自殺が出来るのだ。

俺はなんだつて小説なんか書く気になつたのだらう。小説を書いて、それが何になる。生きるために書く、そんなことはみな嘘だ。小説を書いたとてこの俺の苦痛はやはらぎはしない。

北條民雄の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本