さがしもの
本文約2,300字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
夏休みに親不知子不知の海岸へ遊びに来た文吉は、浜辺で笈づるを背負った老人と出会う。老人は、親鸞上人がかつて難所で洞窟に籠もった際、石に南無阿弥陀仏と一字ずつ記したとされる「親鸞さまの石」を必死に探していた。老人の切実な姿を目の当たりにした文吉は、翌日に帰宅を控える中でその石を求めて思索にふける。親鸞上人が七百年も前の人物であると従兄から諭されるも、文吉はその真偽を学校の先生に尋ねようと考える。
💰 この本を応援する(投げ銭)
文吉は、ある夏休の末のこと、親不知子不知の海岸に近い、従兄の家へあそびに行きました。
そして、毎日従兄と一緒に、浜へつれて行つてもらつて、漁夫たちの網をひくのを見たり、沖の方に、一ぱいにうかぶ帆舟を眺めたりしました。磯にうちよせてくる小波に、さぶ/\足を洗はせながら、素足で砂の上を歩くのは、わけてたのしいことでした。
二三日するうちに、文吉は、すつかり、海になれました。従兄につれてもらはなくとも、ひとりで浜へ出かけるやうになりました。
ある日のこと、朝御飯をたべると、すぐに、文吉は浜へ出かけて行きました。からりとよく晴れた日で、お日さまは、沖の方を、あかるくてらしてゐましたけれど、近く山を背負うた浜のあたりは、まだひや/\した蔭になつてゐました。
やがて、お日さまの光は、沖の方からだん/\岸へ近づいてきました。砂地一めん、パツとあかるくなりました。文吉は、いつさんに、そのあたたかい光の方へ駈けて行つて、岩の出鼻をまがつたとき、どんとぶつかつたものがありました。それは笈づるを背負うた、一人のおぢいさんでした。文吉もおぢいさんも、一しよに砂の上に、ころげました。そして起きあがるときには、文吉がおぢいさんに抱きおこされてゐました。
「ヤレ/\かんべんしてくれよ。わしは、今一しんに、さがしものをしてゐたのでのう。」
おぢいさんは、しはがれ声でいひながら、文吉のきものについた、砂をはらつてくれるのでした。文吉は、びつくりした顔つきで、おぢいさんのするままになつてゐました。
おぢいさんは、もはや六十あまりの年ごろで、額にふかい皺がきざまれて、目はおちくぼんでゐました。おぢいさんは、文吉の顔を見て、
「ウム、よいお子ぢや。」
といひました。そのまま、後をふりかへるでもなく、とぼ/\歩いて行きました。
お日さまは、山の上に高くのぼりました。砂地はぽか/\あたたかくなりました。文吉は岩のかげに寝そべつて、
「へんなお爺さんだな。一体何をさがしてゐたのかな。」
そんなことを考へてゐましたが、白帆のうかんだ、うつくしい海のながめは、すつかり、文吉の心をうばつてしまひました。
それから、一時間ばかりもたつたころでした。