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TORENDIA

千本木川

本文約1,000字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

村の中ほどを横切り湖へ注ぐ千本木川のほとりで、幼少期の筆者が川沿いの道を通い、葭に囲まれた淵での水遊びに親しむ様子を描く。ある夏の暑い日に偶然見つけた清らかな淵で、筆者は一人で水に浸かる時間を楽しみ始める。やがて激しい雷雨の翌日、濁流と化した川の姿を目の当たりにし、季節が移り秋の風が吹く中で川遊びから遠ざかっていく日常の風景を綴る。

土田耕平

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🎧 千本木川 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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裏の山から出て、私の村の中ほどをよこぎつて、湖水へ流れこむ川を、千本木川といひました。千本木川――どうして、そんな名まへがついたのでせう。私の幼いころの記憶では、川ぶちに目立つほどの木もなかつたと思ひましたが――

この千本木川の岸に沿つて、ほそい一すぢ道が湖水の岸までつづいてゐました。私はその道づたひに、歩いて行くのが好きでした。

川は葭の茂つた中にかくれてゐて、水の音ばかりが、どう/\ときこえました。幅一間ばかりの小川でしたが、瀬の早い荒川でした。湖水岸へ出る二町ばかり手前に、葭のきれめから水の流がのぞかれるところがあつて、そこは、早瀬が岩にせかれて、淵になつてゐました。

ある夏のあつい日のこと、私は、いつものとほり、川づたひのみちを、行きました。青くすんだ淵のいろを見ましたら、何だか水にひたつてみたくなつて、葭のあひだを分けて、下りて行きました。岩の上へ着物をぬいでおいて、水の中へ、一足ふみこみますと、水晶のやうなつめたい水が、ぞつとしみて、からだぢゆうの毛穴がひきしまるやうに、おもはれました。私は、こは/″\二足三足とふみこんで、丁度乳のあたりまで水がとどいたとき、淵のまん中に立ちました。あたりを見まはすと、高く葭が取りかこんで、頭の上に、ぢり/\焼きつけるやうな、お日さまがくるめいてゐました。

私は、ほんの二三分の間、淵の中に立つてゐたのでせうが、それはとても長い時間のやうに思はれました。きふに、逃げるやうにして、川岸へあがつてしまひました。

それから、私は毎日、淵へ行つては、ひたりました。はじめの恐さから、だん/\なれて、じぶんの一人あそびをたのしむやうになりました。

さうしていく日かたちました。ある日、はげしい雷雨のあつたつぎの日のこと、川づたひに行つてみますと、途中、葭の中からきこえる水の音が、恐ろしく地ひびきしてゐました。いつものところへ行つて、淵をのぞいて見ましたら――どうでせう、あの清らかにすんだ淵は、あとかたもなく、赤にごりした水が、大きな岩にかみつくやうにしてぶつかつてゐました。私はとても水に入る気にはなれず、ぼんやり立つたまゝ見てゐました。

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