本文へ移動
TORENDIA

騎士屋

本文約1,100字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

小学四年生の受持である牛島先生は、南米への渡航を志す若き教師である。厳格な表情と親しみやすい笑顔を併せ持つ先生は、体操の時間に子供たちを連れて村はづれの原っぱへ向かう。日露戦争期の唱歌を歌いながら歩く道中、踏切の立札に記された「きしやにちゆういすべし」の文字を巡り、先生は「騎士屋」という架空の強い人物の伝説を語る。その威風堂々とした姿は、生徒たちの目に頼もしい騎士の如く映る。

土田耕平

速度
🎧 騎士屋 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 2

私どもが小学四年生のときの受持は、牛島先生でありました。牛島先生は、色が黒くて目がギロリとして、いかにも怖さうな顔つきでしたが、笑ふと、まるで別の人のやうにやさしい顔になりました。

先生は、その年の春中学を卒業したばかりで、まだ大さう若い人でした。やがて南米へ行くのだと云つて、英語の勉強をしてをられました。休み時間には一人教室へ残つて、厚い辞書と首引をしてゐる姿をよく見ました。

「先生、外へ出て一所にあそばうぜ。」

私ども二三人して、教室の窓をのぞきに行きますと、先生は額ごしに大きな目を光らせて、

「うるさいぞ、黙つてをれ。」

けれども、その目は忽ち象のやうに細く、親しい笑顔に変つてをりました。

体操の時間には、私どもはみな先生に連れられて、よく村はづれの原つぱへ遊びに行くことがありました。先生は、庇の破れかゝつた学生帽をかぶり、短い袴に薩摩下駄といふいでたちで、先頭に立つてサツサと歩いて行かれます。私どもはなかば駈足で、その後へついて行かねばなりませんでした。それは丁度ロシヤと戦争のあつたころで、

赤い夕日に照されて……

といふ満洲戦場の唱歌が流行つてゐて、私どもは、外を歩くときは必ずあの唱歌をうたひました。あれをうたふと、勇ましいやうな悲しいやうな、不思議な気持になりました。

「野郎ども、もつと大きな声を出せ。」

先生は時々うしろをふり返つてどなりました。

村のはづれには、その頃鉄道線路が新しく敷かれたばかりでした。踏切のところに、まだペンキのにほひのする立札に、「きしやにちゆういすべし」と筆太に書かれてあります。私どもは物珍らしさにその仮名文字を一字々々声に出して読みあげました。

き、し、や、に、ち、ゆ、う、い、す、べ、し。

「おめえたち、きしやつて何のことか知つてゐるか。」

土田耕平の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本