序、さらば沙翁舞台よ
すでに国書の御印も済み
幼友達なれど 毒蛇とも思う二人の者が
使節の役を承わり、予が行手の露払い
まんまと道案内しようとの魂胆。
何んでもやるがよいわ。おのが仕掛けた地雷火で、
打ち上げられるを見るも一興。
先で穿つ穴よりも、三尺下を此方が掘り
月を目掛けて、打上げなんだら不思議であろうぞ。
いっそ双方の目算が
同じ道で出会わさば、それこそまた面白いと云うもの。
〔と云いつつ、ポローニアスの死骸を打ち見やり〕
この男が、わしに急わしい思いをさせるわい。
どれ、この臓腑奴を次の部屋へ引きずって行こう。
母上、お寝みなされ。さてもさて、この顧問官殿もなあ
今では全く静肅、秘密を洩らしもせねば、生真目でも御座る。
生前多弁な愚か者ではあったが
ささ、お前の仕末もつけてやろうかのう。
お寝みなされ、母上。
〔二人別々に退場――幕〕
そうして、ポローニアスの死骸を引き摺ったハムレットが、下手に退場してしまうと、「ハムレットの寵妃」第三幕第四場が終るのである。緞帳の余映は、薄っすらと淡紅ばみ、列柱を上の蛇腹から、撫で下ろすように染めて行くのだった。その幕間は二十分余りもあって、廊下は非常な混雑だった。左右の壁には、吊燭台や古風な瓦斯灯を真似た壁灯が、一つ置きに並んでいて、その騒ぎで立ち上る塵埃のために、暈と霞んでいるように思われた。そして、あちこちから仰山らしい爆笑が上り、上流の人達が交わす嬌声の外は、何一つ聴こえなかったけれども、その渦の中で一人超然とし、絶えず嘆くような繰言を述べ立てている一群があった。
その四、五人の人達は、どれもこれも、薄い削いだような脣をしていて、話の些中には、極まって眉根を寄せ、苦い後口を覚えたような顔になるのが常であった。その一団が、所謂 Viles(碌でなしの意味――劇評家を罵る通語)なのである。