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TORENDIA

人外魔境

本文約20,100字 ・ 読了時間 約41分

あらすじ(AIが作成しました)

リオの軽口師折竹孫七は、ある夜街で偶然出会った男からダイヤモンドの原石を見せられ、アマゾンのパチニョの湿地に棲むという「水棲人」の謎に引き込まれる。やがて折竹は、失踪した探検家や女性らを救い出すため、泥に閉ざされた未知の領域へと足を踏み入れる。過酷な環境下で、一行は人間の生存を超越した異形の地で対峙し、極限の状況の中で仲間たちの運命が交錯していく冒険を描く。

小栗虫太郎

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リオの軽口師

折竹孫七が、ブラジル焼酎の“Pinga”というのを引っさげて、私の家へ現われたのが大晦日の午後。さては今日こそいよいよ折竹め秘蔵のものを出すな。このブラジル焼酎を飲りながらアマゾン奥地の、「神にして狂う」河の話をきっとやるだろう……と私は、しめしめとばかりに舌なめずりをしながら、彼の開口を待ったのである。

ところが、その予想ががらっと外れ、意外や、題を聴けば「水棲人」。私も、ちょっと暫くは聴きちがいではないかと思ったほどだ。

「君、そのスイセイとは、水に棲むという意味かね」

「そうとも」と彼は平然と頷く。しかし、人類にして水棲の種族とは、いかになんでもあまりに与太すぎる。こっちが真面目なだけに腹もたってくる。

「おいおい、冗談もいい加減にしろ」と、私もしまいにはたまらなくなって、言った。「人間が、蛙や膃肭獣じゃあるまいし、水に棲めるかってんだ。サアサア、早いところ本物をだしてくれ」

すると、折竹はそれに答えるかわりに、包みをあけて外国雑誌のようなものを取りだした。Revistra Geografica Americana――アルゼンチン地理学協会の雑誌だ。それを折竹がパラパラとめくって、太い腕とともにグイと突きだしたページには、なんと、“Incola palustris”沼底棲息人と明白にあるのだ。私は、折竹の爆笑を夢の間のように聴きながら、しばしは茫然たる思い。

「ハハハハハ、魔境やさんが、驚いてちゃ話にもならんじゃないか。どれ、この坊やをおろして、本式に話すかね」

折竹の膝には、私の子の三つになるのが目を瞠っている。ターザンのオジサンという子供の人気もの――折竹にはそういう反面もある。童顔で、いまの日本人には誰にもないような、茫乎とした大味なところがある。それに加えて、細心の思慮、縦横の才を蔵すればこそ、かの世界の魔境未踏地全踏破という、偉業の完成もできたわけだ。その第五話の「水棲人」とは?……折竹がやおら話しはじめる。

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