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TORENDIA

「黒死館殺人事件」著者之序

本文約1,100字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

小栗虫太郎が「黒死館殺人事件」を執筆するに至った背景と思索の軌跡を綴る。本作の主題がゲーテの「ファウスト」であることを明かしつつ、執筆の着想源となったモーツァルトの悲劇的な葬儀の情景について述べる。連載時に読者から受けた賛否両論の反応や、支えてくれた編集者や関係者への感謝を記し、自身にとっての理想を詰め込んだ長編執筆の顛末を振り返る著者による序文である。

小栗虫太郎

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🎧 「黒死館殺人事件」著者之序 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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「黒死館殺人事件」の完成によって、それまで発表した幾つかの短篇は、いずれも、路傍の雑草のごとく、哀われ果敢ないものになってしまった。のみならず、本篇が「新青年」に連載中は、褒められるにも、誹られるにも、悉く最大級の用語を以ってせられた。事実、その渦の中で、私は散々に揉み抜かれたのである。恐らく、日本に探偵小説が出現して以来、かくも私ほど、敵視された作家も、例しなかったことであろう。が、また一面には、狂熱的に支持してくれる、読者も数多くあって、殊に、平素探偵小説など、見向きもせぬと思われるような純文学方面から、霰々たる激励の声を聴いたのも、この時であった。

しかし、毫も私は、この怖ろしい戦場を見捨てて、退却する気にはなれなかったのだが、そうして回を重ねて行くうちに、案外、生え抜きの探偵ファンの間にも、私の読者が少なくないのを知って、心強くなった。ともあれ、この一篇は、いろいろな意味からして、私にとると、貧しい理想の集積とも云えるのである。

さて、此処で一言述べて置きたいのは、これまでも、頻繁に問われたことだったが、この長篇を編み上げるに就いて、そもそも着想を何から得たか――と云うことである。勿論、主題はゲーテの「ファウスト」であるが、大体私の奇癖として、なにか一つでも視覚的な情景があると、書き出しや結末が、労せずに泛んで来るのだ。それが本篇では、第三篇中の山場――すなわち、吹雪の夜に墓窖を訪れる場面に当るのである。それ故、黒死館の着想を、「モッツァルトの埋葬」から得たと云っても、過言ではないと思う。

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