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TORENDIA

マレー俳優の死

本文約6,100字 ・ 読了時間 約13分

あらすじ(AIが作成しました)

シンガポールを訪れた語り手は、滞在先の芝居小屋でかつての花形俳優アンの失踪を聞く。混血児であるアンは、美しいスペイン人の女と恋に落ち、借金を重ねた末に困窮する。金銭を求めた二人は、伝説が残る柔仏の王の墓へ忍び込むことを決意する。墓の入口で男を待っていた女は、中へ入ったまま戻らないアンを案じて周囲に助けを求めるが、原住民や警察も恐れて足を踏み入れられない。アンは伝説の王の墓へ姿を消したまま、二度と戻ることはなかった。

岡本綺堂

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🎧 マレー俳優の死 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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「海老の天ぷら、菜のひたしもの、蠣鍋、奴豆腐、えびと鞘豌豆の茶碗もり――こういう料理をテーブルの上にならべられた時には、僕もまったく故郷へ帰ったような心持がしましたよ。」と、N君は笑いながら話し出した。

N君は南洋貿易の用件を帯びて、シンガポールからスマトラの方面を一周して、半年ぶりで先月帰朝したのである。その旅行中に何かおもしろい話はなかったかという問いに対して、彼はまずシンガポールの日本料理店における食物の話から説き出したのであった。シンガポールには日本人経営のホテルもある。料理店もある。そうして日本内地にある時とおなじような料理を食わせると、N君はまずその献立をならべておいて、それから本文の一種奇怪な物語に取りかかった。

料理のことは勿論この話に直接の関係はないのだが、英領植民地のシンガポールという土地はまずこんなところであるということを説明するために、ちょいと献立書きをならべただけのことだ。その料理店で、久しぶりで日本らしい飯を食って――なにしろ僕はマレー半島を三、四ヵ月もめぐり歩いていたあげくだから、日本の飯も恋しくなるさ。まったくその時はうまかったよ。

それから夜の町をぶらぶら見物に出ていくと、町には芝居が興行中であるらしく、そこらに辻びらのようなものを見受けたので、僕も一種の好奇心に釣られて、その劇場のある方角へ足をむけた。実をいうと、僕はあまり芝居などには興味をもっていないのだが、まあどんなものか、一度は話の種に見物しておこうぐらいの料簡で、ともかくも劇場の前に立って見ると、その前には幾枚も長い椰子の葉が立ててある。日本の劇場の幟の格だね。なるほどこれは南洋らしいと思いながら、入場料は幾らだと訊くと一等席が一弗だという。その入場券を買ってはいると、建物はあまり立派でないが、原住民七分、外国人三分という割合で殆んどいっぱいの大入りであった。

英文の印刷されたプログラムによって、その狂言がアラビアン・ナイトであることを知ったが、登場俳優はみなスマトラの原住民だそうで、なにを言っているのか僕らにはちっとも判らなかった。

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