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TORENDIA

南極記

本文約17,400字 ・ 読了時間 約35分

あらすじ(AIが作成しました)

1928年の南極上空でバード大佐は、不毛の氷原に立つ日本の国旗と標識を発見する。かつて無謀な探検を行い、世界を驚かせた日本人隊の一団が遺したその証は、先占権をめぐる各国の領土宣言が飛び交う中でも沈黙を守り続けていた。大佐は送られてきた『南極記』から彼らの足跡を読み解き、先駆的な功績を再発見するとともに、自ら命名した海湾の名称を塗り替えることで、名もなき探検家たちの隠れた偉業を静かに称える。

久生十蘭

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一九二八年(昭和三)の十二月二十九日、三発のフォッカー機で、西経百五十度の線を南極の極点に向って飛んでいるとき、南緯八十度附近の大氷原の上で、見せかけの花むらのような世にも鮮かな焔色したものがバード大佐の視覚をかすめた。

南極大陸はあたかも盛夏の候で、空は無窮の蒼さに澄み、雲の影ひとつなく、プリンクという南極氷原特有の光暈で彩られた無住の寒帯が、百万劫の静寂のなかに茫漠とひろがっている。風房の視野に入ってくるものは、すべて氷河時代の病的な形容のみで、氷の崖か、氷の瀑布、氷卓の根もとに吹きよせた漂雪、さもなければ大きな口をあけた内陸氷の亀裂といったようなものでしかない。見るかぎり白一色に結晶し、白金よりも堅く厳めしい大氷原のただなかで、眼をくすぐるような都雅な色彩に接しようなどとは思っていなかった。高度は四百で、最初の触目では、右前方十粁ほどのところにあって、赤い二つの点としか見えなかったが、進むにつれて、川面に散りこんだ花びらのように、たえずゆらゆらとゆらめきながら右の機翼の下へ流れ寄ってきた。

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