あなたも私も
本文約132,100字 ・ 読了時間 約265分
あらすじ(AIが作成しました)
鎌倉の別荘で過ごすサト子は、叔母の不在中に隣家の青年と交流する。この出会いを機に、彼女は父の遺産をめぐる巨大な陰謀や、天然ウラニウム鉱山の権利にまつわる国際的な策略へと巻き込まれていく。血なまぐさい政治的思惑や死の灰の恐怖が交錯する中、莫大な財産を継承したサト子は、火薬庫の番人として複雑な現実と向き合いながら、周囲の人々との新たな関係を築こうと奔走する。
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クラゲの海
夏は終ったが、まだ秋ではない、その間ぐらいの季節……
沖波が立ち、海はクラゲの花園になっている。渚に犬がいる。子供がいる。漁師が大きな魚籃をかついで、波うちぎわを歩いている。
秋波のうちかえす鎌倉の海は、房州あたりの鰯くさい漁村の風景と、すこしもちがわない。
飯島の端にある叔母の家の広縁からながめると、むこう、稲村ヶ崎の切通しの下までつづく長い渚には、暑い東京で、汗みずくになって働きながら夢想していたような、花やかなものは、なにひとつ残っていない。
愛憎をつかして、サト子は、ぶつぶつひとりごとを言った。
「風景だけの風景って、なんて退屈なんだろう」
ことしの夏こそは、この海岸でなにかすばらしいことが起こるはずだったのに、叔母にはぐらかされて、チャンスを逃してしまった。
鎌倉に呼んでもらいたいばかりに、春の終りごろから、いくども愛嬌のある手紙を書いたが、今年はお客さまですから、とお断りをいただいた。
この家をまるごと、ひと夏、七万円とか十万円とかで貸していたので、お客さまうんぬんは、お体裁にすぎない。
あきらめていたら、夏の終りになって、迎いがあった。
「これからだって、面白いことは、あるにはあるのよ。いいだけ遊んでいらっしゃい」
思わせぶりなことを言い、留守番にした気で、じぶんは、こけしちゃんという、チビの女中を連れて熱海か湯河原かへ遊びに行ってしまった。
なにをして、どう遊べというのか。犬と漁師の子供では、話にならない。土用波くらいは平気だが、海いちめんのクラゲでは、足を入れる気にもなれない。
こんなことなら荻窪の家に居て、牛車で野菜を売りにくる坂田青年でも、待っているほうがよかった。色は黒いが、いい声で稗搗節をうたう。
「おれァ、お嬢さん、好きだよ」
などと、手放しでお愛想を言ってくれる。
「泣いて待つより……」
退屈にうかされて、サト子は、稗搗節をうたいだした。『枯葉』などという、しゃれたシャンソンも知らないわけではないけれど、稗搗節のほうが、今日の気分にピッタリする。
「野に出ておじゃれよ
野には野菊の花ざかりよ……」
調子づいてうたいまくっていると、地境の生垣の間から大きな目が覗いた。