昨日・今日・明日
本文約11,800字 ・ 読了時間 約24分
あらすじ(AIが作成しました)
軍隊で隊長の酒の肴として浪花節や逆立ちを強要される一等兵の赤井と白崎は、過酷な状況下で鶏の徴発を命じられる。命令の理不尽さに苦しむ二人は、偶然トランクを預かるという事態を経て、音楽家や放送関係者との新たな縁を結んでいく。戦時下の不条理な日常の中で翻弄されつつも、ささやかな希望や人間的な交流を見出そうとする二人の運命と、不意に訪れる再会の予感をそれぞれの視点で描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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昨日
当時の言い方に従えば、○○県の○○海岸にある第○○高射砲隊のイ隊長は、連日酒をくらって、部下を相手にくだを巻き、○○名の部下は一人残らず軍隊ぎらいになってしまった。
彼は蓄音機という綽名を持ち、一年三百六十五日、一日も欠かさず、お前たちの生命は俺のものだという意味の、愚劣な、そしてその埋め合わせといわん許りに長ったらしい、同じ演説を、朝夕二回ずつ呶鳴り散らして、年中声が涸れ、浪花節語りのように咽を悪くし、十分毎にペッペッと痰を吐き散らしていた。が、彼は部下の顔を痰壺の代りに使うという厄介な病気を持っていた。もっとも、彼が部下の顔へ痰をひっ掛けるのは、機嫌のわるい時に限っていた。が、彼には機嫌の良い時は殆んどなかったから、彼の不幸な部下の中で「蓄音機の痰壺」になることを免れた幸福な兵隊は一人もいなかった。
なお、彼は部下の顔を痰壺にする代りに、その痰壺の掃除をしてやるといわん許りに、彼の手を部下の顔へ持って行ったが、しかしその掃除のやり方は少し投げやりで乱暴であったから、かなり大きな音を立てた。彼は祭りの太鼓の音のように、この音が気に入っていたらしく、彼自身太鼓たたきになったような気になったのか、この音楽的情熱を満足させるために、鼻血が出るまで打ち続けるのであった。
そして、この太鼓打ちの運動で腹の工合が良くなるのか、彼は馬のようにくらった。鯨のように飲んだのは勿論である。
もっとも、彼は部下の余興を見なければ、酒が咽へ通らないという奇病を持っていたから、その鯨のような飲酒欲を満足させるためには、兵隊たちは常に自分の隠し芸をそれぞれストックして置く必要があった。
余興の中で、隊長を喜ばせるのは、何といってもまず浪花節であった。
「浪花節をやれ、浪花節だ。浪花節をやらんか。何ッ? やれない。貴様のような奴は兵隊の屑だぞ!」
そして、隊長は浪花節はおろか何一つ隠し芸のない彼の所謂「兵隊の屑」には、
「何にも出来んけりゃ、逆立ちして歩いてみろ!」
と、命じたが、彼に言わせると、
「浪花節は上手な程よろしい。逆立ちは下手な程よろしい」