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TORENDIA

音に就いて

本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

文学作品における音響表現を論じる。シェイクスピア劇のノック音、油地獄の幟がはためく音、於七の鈴の音などを挙げ、場面の緊張感や情趣を強調する手法を考察する。また、プロフェッサアの校舎に響く扉の音や、ランタアンにおける環境音の描写に触れ、音がいかに読者の感覚や心理に働きかけるかを解説する。最後に、音の適用は市井文学や世話物に顕著であり、聖書や源氏物語は音のない静寂の世界であると述べる。

太宰治

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🎧 音に就いて / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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文字を読みながら、そこに表現されてある音響が、いつまでも耳にこびりついて、離れないことがあるだろう。高等学校の頃に、次のような事を教えられた。マクベスであったか、ほかの芝居であったか、しらべてみれば、すぐ判るが、いまは、もの憂く、とにかくシェクスピア劇のひとつであることは間違いない、とだけ言って置いて、その芝居の人殺しのシイン、寝室でひそかにしめ殺して、ヒロオも、われも、瞬時、ほっと重くるしい溜息。額の油汗拭わんと、ぴくとわが硬直の指うごかした折、とん、とん、部屋の外から誰やら、ドアをノックする。ヒロオは、恐怖のあまり飛びあがった。ノックは、無心に、つづけられる。とん、とん、とん。ヒロオはその場で気が狂ったか、どうか、私はその後の筋書を忘れてしまった。

油地獄にも、ならずものの与兵衛とかいう若い男が、ふとしたはずみで女を、むごたらしく殺してしまって、その場に茫然立ちつくしていると、季節は、ちょうど五月、まちは端午の節句で、その家の軒端の幟が、ばたばたばたばたと、烈風にはためいている音が聞えて淋しいとも侘びしいとも与兵衛が可愛そうでならなかった。五人女にも、於七が吉三のところへ夜決心してしのんで行って、突如、からからと鈴の音、たちまち小僧に、あれ、おじょうさんは、よいことを、と叫ばれ、ひたと両手合せて小僧にたのみいる、ところがあったと覚えているが、あの思わざる鈴の音には読むものすべて、はっと魂消したにちがいない。

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