誤った鑑定
本文約7,300字 ・ 読了時間 約15分
あらすじ(AIが作成しました)
法医学者ブライアンが、探偵小説に登場する非科学的な鑑別法の誤りや、過去の実際の事件における医師の不正確な鑑定について語る。特に、誤った鑑定で殺人罪に問われた女性が、再鑑定によって無罪を証明されるまでの経緯を通して、専門家による科学的根拠を欠いた独断がいかに危険であるかを論じる。本作は、医療知識の欠如や経験則への過信が引き起こす司法の誤謬を浮き彫りにし、科学鑑定の重要性と厳密さを追究する内容となっている。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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晩秋のある夜、例の如く私が法医学者ブライアン氏を、ブロンクスの氏の邸宅に訪ねると、氏は新刊のある探偵小説雑誌を読んでいた。
「探偵小説家というものは随分ひどい出鱈目を書くものですね」と、氏は私の顔を見るなり、いきなりこういって話しかけた。
「え? 何のことですか?」と私は頗る面喰って訊ね返した。
「今、ジョージ・イングランドの『血液第二種』という探偵小説を読んだ所です。その中に出て来る医者が、血液による父子の鑑別法を物語っていますが、実に突飛極まることを言っていますよ、まあよく御聞きなさい。こうです。父と子の血液を一滴ずつ取って、それを振動器の中へ入れて、まぜ合せると、もし真実の父子ならば、血液を満している微小な帯電物の振動が一致するというのです。電子ではあるまいし、何と奇抜な説ではありませぬか?」
私もそれを聞いて思わず吹き出してしまった。
「それじゃまるで支那の大昔の鑑別法そっくりですね」と私は言った。
「それはどんな鑑別法ですか?」と氏は急に真面目な顔をして訊ねた。
「支那の古い法医学書に『洗冤録』というのがあります。その中に、血液による親子の鑑別法が書かれていますが、それによりますと、親と子の真偽を鑑別するには、互に血を出し合って、それを、ある器の中にたらすと、もし親子であったならば、その血がかたまって一つになり、もし親子でなかったならば、よく混らないというのです」
「そうですか、いや却ってその方がむしろ科学的鑑別法に近いじゃありませんか、現今では、血球の凝集現象の有無から判断するのですもの」こう言って氏は更に雑誌を取り上げて上機嫌で語り続けた。
「それから、その医者はまた言います。人間の血液は四種類に分けられていて、親と子は同一種類に属するものだと。四種類に分けられているとまでは正しいですけれど、親と子が同一種類だということは、少し考えたら、言えないことではありませんか。父と母とが同一種類の人ならばともかく、父と母とがもし違った種類の人だったならば、生れた子が親と同一種類だとはいえなくなるのが当然ですからね」