秘密の相似
本文約6,900字 ・ 読了時間 約14分
あらすじ(AIが作成しました)
新婚の翌日に実家へ戻った文子は、夫Tへ宛てた手紙で自身の秘密を告白する。それは右眼が失明しているという事実だった。しかしTが自身の網膜炎による片眼の失明を隠していたことを宴席で知った文子は、相手の本心を探るためにその手紙が全て虚偽であったと明かす。結婚という制度や、互いに不具を隠し合う卑怯な男女の欺瞞を激しく糾弾し、文子はTとの永久的な別れを告げる。
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一
おなつかしきT様。
私は、何といって私の今の心もちをあなたに御伝えしてよいやら、本当に迷ってしまいました。あなたは今頃定めし私を怨んでおいでになることと思います。本当に私こうして筆を執って居ましても、恐しいような、恥かしいような、また悲しいような思いになりまして、何から書きかけてよいやらわからなくなりました。私はこれから、あなたにとってはまったく意外な、世にも恐しい私の秘密を御伝え致そうと思います。そうして私は心からあなたに御わびして、あなたの御ゆるしを乞おうと決心致しました。この決心をする迄に私はどれ程苦しんだか知れません。しかしその苦しみは、秘密があなたに発見される時の苦しみに比ぶれば何でもないものであろうと思うと、私は一切を告白せずに居られなくなりました。無論両親は大に反対致しましたが、私が頑としてきき入れぬものですから、遂にやむを得ず同意してくれました。これから私は私の犯そうとした大罪を潔よく白状致します。それはあなたの想像も及ばないところでして、きっとあなたは吃驚なさいますと同時に、限りなく腹をお立てになるだろうと思います。然し私は危うい瀬戸際に至って、その大罪を犯さずに済みました。それが、せめてもの私の慰さめでもあり、又、比較的軽い気持で、あなたに御わびすることが出来るのであります。
不思議な御縁によってあなたの許に嫁ぎ、新婚の一夜を過して、その翌日、実家へ戻って、そのまま、御そばに伺わぬ私の行いを、あなたは嘸かしお怒りで御座いましょう。でも私は、罪を犯して長い一生を送る気にはなれないので御座います。あなたを御慕い申せば申すほど、却って心苦しくてならぬので御座います。あなたの御なつかしい姿は、ふかくふかく私の心にきざみ込まれて、ともすれば私を美しい夢の世界に誘い入れますが、私の秘密を思い出しますと、愕然としてその夢からさめるので御座います。