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TORENDIA

物理学の要用

本文約2,500字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

物理学とは天然の原則に基づき事物の性質を究める学問であり、国や時代を問わず普遍的である。本作は、西洋文明の基盤であるこの物理学を軽視し、陰陽五行や幽冥説といった無稽な惑溺から脱却しきれていない当時の社会を論じる。特に、儒学の弊害により学問の推究を怠り、日常の些事における理を疎かにする姿勢を批判する。著者は物理学を人間生活の向上に不可欠な根源的教養と位置づけ、その学習の重要性を提唱する。

福沢諭吉

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🎧 物理学の要用 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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物理学とは、天然の原則にもとづき、物の性質を明らかにし、その働を察し、これを採ってもって人事の用に供するの学にして、おのずから他の学問に異なるところのものあり。たとえば今、経済学といい、商売学といい、等しく学の名あれども、今日の有様にては、経済商売の如き、未だまったく天然の原則によるものに非ず。いかんとなれば、経済商売に、自由の主義あり、保護の主義あり。そのもとづくところ、同じからずして、英国の学者が自由をもって理なりといえば、亜国の人は保護をもって道なりといい、これを聞けば双方ともに道理あるが如し。されば、経済商売の道理は、英亜両国においてその趣を異にするものといわざるをえず。

物理はすなわち然らず。開闢の初より今日にいたるまで、世界古今、正しく同一様にして変違あることなし。神代の水も華氏の寒暖計二百十二度の熱に逢うて沸騰し、明治年間の水もまた、これに同じ。西洋の蒸気も東洋の蒸気も、その膨脹の力は異ならず。亜米利加の人がモルヒネを多量に服して死すれば、日本人もまた、これを服して死すべし。これを物理の原則といい、この原則を究めて利用する、これを物理学という。人間万事この理に洩るるものあるべからず。もしあるいは然らざるに似たる者は、未だ究理の不行届なるものと知るべし。そもそもこの物理学の敵にして、その発達を妨ぐるものは、人民の惑溺にして、たとえば陰陽五行論の如き、これなれども、幸にして我が国の上等社会には、その惑溺はなはだ少なし。拙著『時事小言』の第四編にいわく、

「(前略)ひっきょう、支那人がその国の広大なるを自負して他を蔑視し、かつ数千年来、陰陽五行の妄説に惑溺して、事物の真理原則を求むるの鍵を放擲したるの罪なり。天文をうかがって吉兆を卜し、星宿の変をみて禍福を憂喜し、竜といい、麒麟といい、鳳鳥、河図、幽鬼、神霊の説は、現に今日も、かの上等社会中に行われて、これを疑う者、はなはだ稀なるが如し。いずれも皆、真理原則の敵にして、この勁敵のあらん限りは、改進文明の元素は、この国に入るべからざるなり。

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