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TORENDIA

荘子

本文約12,300字 ・ 読了時間 約25分

あらすじ(AIが作成しました)

戦国時代の魏の都の郊外で、隠遁生活を送る壮年の哲学者・荘子が、己の「道」を模索する姿を描く。荘子は、役に立たないがゆえに伐採を免れ天命を全うする櫟の大木に、達人の境地を見出す。ある日、諸国を往来する商人・支離遜が訪れ、洛邑の麗姫の近況や天下の情勢を語る。荘子はかつて洛邑で麗姫と親交があったが、時を経て変化した彼女の姿や、妻の田氏との静かな日常を通して、自然の理と人間社会の矛盾や変化に向き合っていく。

岡本かの子

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紀元前三世紀のころ、支那では史家が戦国時代と名づけて居る時代のある年の秋、魏の都の郊外櫟社の附近に一人の壮年=荘子が、木の葉を敷いて休んでいた。

彼はがっちりした体に大ぶ古くなった袍を着て、樺の皮の冠を無雑作に冠って居た。

顔は鉛色を帯びて艶が無く、切れの鋭い眼には思索に疲れたものに有勝ちなうるんだ瞳をして居た。だが、顔色に不似合な赤い唇と、ちぢれて濃い髪の毛とは彼が感情家らしいことを現わして居る。そうかと思えば強い高い鼻や岩のような額は意志的のもののようにも見える。全体からいっていろいろなものが錯綜し相剋し合っている顔だ。

荘子の腰を下している黍畑の縁の土坡の前は魏の都の大梁から、韓の都の新鄭を通り周の洛邑に通ずる街道筋に当っていた。日ざしも西に傾きかけたので、車馬、行人の足並みも忙しくなって来たが、土坡の縁や街道を越した向側の社のまわりにはまだ旅人の休んで居るものもあり、それに土地の里民も交ってがやがや話声が聞えていた。里民たちは旅人たちから諸国のニュースを聴かせて貰うのを楽しみによくここに集って来た。彼等は世相に対する不安と興味とに思わず興奮の叫び声を挙げた。荘子はそういう雑沓には頓着なく櫟社の傍からぬっと空に生えている櫟の大木を眺め入って居た。その櫟は普通に老樹と云われるものよりも抽んでて偉きく高く荒箒のような頭をぱさぱさと蒼空に突き上げて居た。別に鬱然とか雄偉とかいう感じも無くただ茫然と棒立ちに立ち天地の間に幅をしている。こんな自然の姿があろうか。しかし荘子はこの樹の材質が使う段になると船材にもならず棺材にもならず人間からの持てあましものの樹であり、それ故にまた人間の斧鉞の疫から免れて自分の性を保ち天命を全うしているのだという見方をして、この樹を讃嘆するのだった。彼はつぶやいた。

「この樹は人間にしたら達人の姿だ」

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