TRENDIA CLASSIC

ドモ又の死

有島武郎

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ドモ又の死 (これはマーク・トウェインの小話から暗示を得て書いたものだ)

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人物

花田          ┐

沢本 (諢名、生蕃)  │

戸部 (諢名、ドモ又) ├若き画家

瀬古 (諢名、若様)  │

青島          ┘

とも子   モデルの娘

画室

現代 気候のよい時節

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沢本と瀬古とがとも子をモデルにして画架に向かっている。戸部は物憂そうに床の上に臥ころんでいる。

沢本  (瀬古に)おい瀬古、ドモ又がうなっているぞ、死ぬんじゃあるまいな。 瀬古  僕も全くうなりたくなるねえ、死にたくなるねえ。……ともちゃん、おまえもおなかがすいたろう。 とも子 もう物をいってもいいの、若様。 瀬古  いいよ。おなかがすいたろう。 とも子 そんなでもないことよ。 戸部うなる。

どうしたの、戸部さん、あなた死ぬとこなの。まだ早いわ。

瀬古  ともちゃんはここに来る前に何か食べて来たね。 とも子 ええ食べてよ、おはぎを。 沢本  黙れ黙れ。ああ俺はもうだめだ。(腹をかかえる)つばも出なくなっちまいやがった。 瀬古  ふうん、おはぎを……強勢だなあ、いくつ食べたい。 とも子 まあいやな瀬古さん。 瀬古  そうしておはぎはあんこのかい、きなこのかい、それとも胡麻……白状おし、どれをいくつ…… 沢本  瀬古やめないか、俺はほんとうに怒るぞ。飢じい時にそんな話をする奴が……ああ俺はもうだめだ。三日食わないんだ、三日。 瀬古  沢本は生蕃だけに芸術家として想像力に乏しいよ。僕が今ここにおはぎを出すから見てろ――じゃない聞いてろ。ともちゃんが家を出ようとすると、お母さんが「ともや、ここにこんなものが取ってあるから食べておいでな」といって、鼠入らずの中から、ラーヴェンダー色のあんこと、ネープルス・エローのきなこと、あのヴェラスケスが用いたというプァーリッシ・グレーの胡麻…… 戸部うなり声を立てる。

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