TORENDIA
痀女抄録
矢田津世子
TORENDIA
痀女抄録
本文約32,300字 ・ 読了時間 約65分
あらすじ(AIが作成しました)
中宮寺に伝わる天寿国曼荼羅の繍帳について柳井先生から話を聞いた語り手は、飛鳥芸術の豪華さと、太子の御遺徳を偲んで針を運んだ采女たちの姿に想いを馳せる。その後、語り手は博物館を訪れるが休館中のため断念する。一方、物語は刺繍師の銀三や連之助、寿女ら職人たちの日常と、彼らの複雑な人間模様を綴る。亡き先人の面影や彼らの生活を交えつつ、伝統的な刺繍技術と職人たちの繊細な情愛、そして過ぎ去った日々の記憶を描く。
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先き頃、京阪方面の古刹めぐりから戻られた柳井先生の旅がたりのうちに、大和中宮寺の「天寿国曼荼羅」のおはなしがあった。わたくしは不幸にして未だに中宮寺をおとなう折にはめぐまれぬけれども、その曼荼羅繍帳にふれては、これまでも幾たびか人にもきかされ書物でも読んだ憶えがあるので、先生のおはなしにはひとしお惹かれるものがあった。
現存する繍帳は片々たる小断欠を接ぎあわせたわずか方三尺たらずの小裂ゆえ一見すぐさまこれをもって一丈六尺四方の原形を想像することは難いけれども、しずかにこれへ眸をおくと華麗善美をつくしたそのかみの大繍帳が不思議に目のあたりくりひろげられて、想いはいつしか推古の大観へ至ると言われる。