万年青
本文約5,900字 ・ 読了時間 約12分
あらすじ(AIが作成しました)
笑い上戸の福子は、大家族である本家の隠居を囲い、競って機嫌をとる他の嫁たちの姿に哀しさを感じていた。ある日、福子は隠居から「死んだら何が欲しいか」と皆が遺産をねだる中で自分は何を望むかを問われる。福子は隠居の孤独を察し、涙を浮かべて言葉を失う。他者から純粋な心で接されることを渇望する年寄りの心境と、それに応える福子の健気な交流を、大切に育てた万年青の描写を交えて静かに描き出す。
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福子は笑い上戸で通っていた。睫毛のふかいパッチリと見開いた丸っこい眼が、みるみる三日月になってクツクツと笑いだす。そばにいるものまで、つい、つりこまれて笑い出す始末だった。
「まあ、福子さんたら、何がそんなに可笑しいの?」
つりこまれて一緒に笑い出した友だちが、しまいにはおなかを痛くして、わけもなしに肚を立てて、こう恨みがましく福子を責めることさえあった。
笑うまいと力んで口を固く結んでいても、しぜん、ほぐれて、笑い出してしまう。生れつき、笑いの神様がちゃんと胸の中に鎮座していらっしゃるのだと、福子自身は諦めている。神様の居催促にあっては叶わない、笑わないわけにもいかないと、こっそり自分に言い訳を云ったりした。
「福子が笑うのは、一種の運動なんだね。」
良人だけは、こんな云い方をした。そして、いかにも若い男らしい興味深そうな眼つきで、福子の顔をまじまじと眺めるのだった。
「いやよ。研究資料みたい。」
福子は笑いながら、ぷいと顔をそむける。
「はあ、やっぱり、運動だね。顔面筋肉の活動。内臓の躍動。」
良人は独りで感心して、「腹が減るのも無理がないね。とても節米にはなるまい。」
と、こんどは福子を見て同情したり、歎いたりした。
「賑やかなほうがいいって、あんなにわたしをお望みになったのに。」
福子も負けてはいなかった。
良人はにやにやして、
「百年目だね。」
と、手軽に応酬した。「お名前どおりの福の神といっしょにいると思えば、男冥利につきるよ。」
貶されているのか、賞められているのか、福子はどっちつかずの気持で、こんな良人を前にして、途方にくれた。
福子は、友だちの間でも、親類の間でも、「福子さん、福子さん」で親しまれていた。座がはずまないようなとき、
「福子さんがいらっしったらね。」
と、かならず、その名が話題になるのだった。福子がいるだけで、もう、座の空気がやわらぐ。気づまりな雰囲気が、福子が入ってきただけで、なごやかに明るくはずんでくるのだった。
「高木の家では、いい嫁さんを当てたものだ。気だてはよし、働きものだし、隠居さんも自慢の可愛い嫁さんだからね。」
親類の者たちは、こう云って評判しあった。