旅役者の妻より
本文約7,500字 ・ 読了時間 約16分
あらすじ(AIが作成しました)
旅役者である夫と幼い娘と共に日向路を放浪する妻が、疎遠な義姉へ送った手紙を綴る。病と極貧に喘ぎ、親族からの冷淡な仕打ちや座元からの置き去りに苦しむ日々を描く。ようやく地元の有力者の支援を得て窮地を脱するものの、再び過酷な旅を続ける不安や、身ごもった苦境を吐露する。先が見えぬ生活の中で、唯一頼れる存在である義姉に対し、救いを求める切実な胸の内を語る。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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暑い暑い言うたのも束の間にてもはや秋風たちはじめ、この頃では朝夕膚さむいようになりましたが、まことに久しくおたよりも致さず、あね様はじめ小さい菊ちゃんにもお変りもあらせられませんか。おうかがい申上げます。思えばいまだ暑い盛り、油津よりおたよりいたせし以来今日まで何らの音信もいたしませず、さだめし、いずこいかなるところをさまよい居るかと雨につけ風につけお噂にのぼりお心なやませし御事と今更のように相すまぬ心地がいたします。いつも御地のこと心にかかりつつも余りに浅間しく悲しき身の上に、いつもいつもつい一度として嬉しきたよりは聞えあげぬこととて、何んとか身の落ちつきのついてからと一日一日と長びきて加様に御無沙汰いたせし次第、何卒御免下され度候。
あね様。
おたよりせなんだ約百日ばかりの間、言葉につくせぬ苦労をなめました。
日向路さしてさまよいこんでよりつい一日として好い事とてはなく、慣れぬ水、慣れぬ気候にあてられて親子三人が病いの床につく有様、わたくしは昨冬弓子の産後の不養生が今にさわりて痩せ衰え、ひきこんだ風邪がいまだにぬけず、朝夕の苦しい咳といったら、胃の腑までもつきあがってくる思い、良人にも勧められて仕様ことなく診察してもらいましたところ慢性の気管支かたるとのこと、余りに烈しく咳する時は肺にかかる怖れがあるとの医者の言葉、良人はまた良人で当地方の気候にまけ脳をわるくする始末、夏の初め、舞台で卒倒して以来体の衰弱がはなはだしく、果ては寝こんで舞台を休む様な悪運つづき、加うるに鶴江まで疫病にかかり発熱して食べものがそのまま出るというような有様にて、悲惨と申すも言葉の現わしようもなく、何事も前世にて犯せし罪の報いと諦めて居りました。