TRENDIA CLASSIC

初看板

正岡容

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……つらつら考えてみると、こんな商売のくせに私はムッツリしてていったい、平常はあなたもご存じの通りに口が重たいほうなのに、しかもいたってそそっかしい。これはまあどういう生まれつきなんだろうと、ときどき情なくなることがありますが、ほんとにムッツリとそそっかしいんです。いつかも銭湯で帽子をかぶり、股引をはいたまま、あわや湯槽へ入ろうとして評判になったし、裸で涼んでいてフイと用事を思い出し、その上へ羽織を引っかけてすまして電車へ乗って笑われたなんてこともありましたっけ。葉書を出しに行く途で鮭の切身をひと切れ買って、まちがえてその鮭のほうを郵便函へほうり込んでしまったこともありました。こいつはあとで郵便屋さんが葉書を集めにきて、さぞや肝を潰したことでしょう。どこの世界にあなた、郵便函から鮭の切身が出るなんてべら棒があるもんですかね。つまり、そんな人一倍のそそっかし屋だから、人生の戦い、芸の修業にも、はじめにあわてて喜んでしまい、とんだ失敗をやらかしたようなことになってしまったのかもしれませんや。

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