巣立ち
本文約10,000字 ・ 読了時間 約21分
あらすじ(AIが作成しました)
山奥の村で結婚生活を始めた病身の彼と彼女は、ある日、野茨の生垣に鳥の巣を見つける。雛が生まれた頃、彼らは一羽のアカハラを保護し、後に放すことで小鳥の巣立ちを見守る。やがて彼らの山小屋には一羽のアカハラが毎朝訪れるようになり、二人はそれを愛称で呼びながら、庭で餌を食べる様子などを眺めつつ、静かでささやかな日常を積み重ねていく。
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彼女は窓をあけた、さうすると、まるでさういふ彼女を待つてゐたかのやうに、小屋のすぐ傍らの大きな樅の木から、アカハラが一羽、うれしさうに啼きながら飛び下りてきて、その窓の下で餌をあさり出した。けさもまた霧雨がふつてゐるのである。もう七月だといふのに、さうやつて窓をあけてゐると、寒いくらゐだ……
はじめのうちはよく彼女は、その小鳥に何かやらうと思つて、いそいで食物の殘りをもつてきてやつたが、それを投げると、小鳥はびつくりして逃げてしまつて、二度と近づかないのである。それでこの頃はもう、彼女は窓のところに手をかけたきり、草の中に赤い胸をかくすやうにして、何をあさつてゐるのか、小鳥があちこち走りまはつてゐるままにさせて置くのである……
突然、その小鳥が何かにびつくりしたやうに、飛び去つた。氣がついてみると、彼女の背後に、いつのまにか彼が寢間着のまま突立つてゐるのだつた。
「なあんだ、おれが來ると、すぐいつてしまやあがる」彼はさう不平さうに言ひながら、輕い咳を二つ三つした。
「あなたは亂暴だから……」彼女はいそいで窓を閉めながら、しかしいたはるやうに彼に言ふのだつた。
かうしてすこし病身な彼を相手の、さうして彼の好きな森のなかでの――しかし彼女にとつては最初は淋しくないこともなかつた孤獨な生活にも、だいぶ馴れてきたこの頃である。さうしてその毎朝毎朝は、いつも大抵このやうにして始まるのである……