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TORENDIA

萩の花

本文約1,600字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

軽井沢で過ごした夏、芥川龍之介や室生犀星と過ごしたかつての記憶と、ゴルフ場近くのホテルで偶然目にした見知らぬ少年少女の姿を綴る。前者は萩の花を詠んだ発句にまつわる思ひ出であり、後者は夏の終わりに親の目を盗んで密かに会う小さな恋人たちの姿である。夕暮れの中で待ち人を気遣う子供たちと、傍らで揺れる萩の花の情景をとおして、著者が抱く去りゆく季節への哀愁や空想的な感慨を静かに描き出している。

堀辰雄

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🎧 萩の花 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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萩の花については、私は二三の小さな思ひ出しか持つてゐない。そのいづれもがみな輕井澤で出遇つたことばかりである。その花の咲く頃、私は大抵この村にゐるからであらう。

いつの夏の末だつたか、鶴屋旅館の離れで、芥川さんと室生さんが、同宿の或る夫人のために、女持ちの小さな扇子に發句を寄せ書きなさつたことがあつた。そのそばで少年の私は默つて見てゐたのである。芥川さんはなんでもその扇面に、小さな細い字で「明星のちろりに響けほととぎす」といふ句をお書きになつた。それをその扇子に書いてしまはれると、こんどはお二人で在りあはせの紙に、即興句を口ずさまれながら、しきりに何やらお書きになつてゐられた。その多くは書くそばからすぐ丸められたが、そのうち芥川さんは一枚だけ、やや氣に入られたか、破かれずに脇に置いておかれた。それには一匹の蜻蛉の繪が輕くあしらはれて、

野茨にからまる萩のさかり哉

と書かれてあつた。それを私がとり上げながら、「これ、僕、頂戴して置いてもよろしう御座いますか」といつても、芥川さんは默つたまま、他の紙に熱心に向はれてゐた。

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