日付のない日記
本文約2,200字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
朝の起床から始まる平穏な日々の営みの中で、小林が翻訳したヴァレリイの「テスト氏」を開き、病による眠気と闘いながらプルウストの小説を愛読する様子を綴る。そこからプルウストの精妙な描写術や執筆姿勢を論じ、ジョイスやバルザックといった海外の作家との比較検討を展開する。昼食後の休息時間には日本の古典文学を読み耽り、特に「更級日記」の作者に寄せる共感や思索を収めた随筆である。
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今朝も七時ごろに目が覺める。
それから一時間ばかり、私は寢床の上で、新聞を讀みながら、日光浴をやる。この頃は、丁度おあつらへ向きに、その時分になるともう朝日が一ぱい寢床の上にあたりだす。
八時頃やつと起きる。自分でパンをあぶり、チイズを切り、紅茶をいれる。無精な私なのだが、これだけは自分でしないと氣にいらない。
郵便物がくる。その中に雜誌が二三册と、江川書房からの小包がひとつある。眞先きにその小包を開けて見ると、小林の今度譯した「テスト氏」。――何だか、かう、すらりと脊の高い人を見たやうな感じの、美しい小册子である。
私はそれをそのまま、飮みさしの紅茶と一しよに、自分の部屋へ持つて行つて、早速ペーヂを切りながら、ところどころを拾ひ讀みする。――ヴァレリイの筆の難解なせゐもあらうが、もう頭がすこしぼんやりしだす。へんに眠い。これがこの頃の私の病氣なんだ。一種の神經衰弱ださうだけれど。……私は氣分を一變させようと、今度は、この頃日課のやうに讀んでゐるプルウストの本を取りあげる。小さな側机の上に、プルウストの本ばかり十册以上もうづ高く積んである。私はいつもその中から手あたり次第に一册を引つこ拔いて、それをまたどこといふことなしに開けて見て、そこをあきるまで讀むことにしてゐる。かうでもしなければ、私には到底この大部の小説を讀む氣になんかなれぬ。――そして私は今日はこんな一節にぶつかる。