TRENDIA CLASSIC

ランプの下で

堀辰雄

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山にやつて來てから、もう隨分長いこと書かない。去年はほんたうに何も書きたくなかつたので、あつさりと何も書かなかつたが、今年はそんな氣持はかなぐり棄てて、ひとつうんと書いて見るつもりだ。

しかしまだ、何が書けるのやら、自分にも見當がつかない始末だ。が、今年は――秋にでもなつたら、ひよつとしたら詩が書けさうな氣がしてゐる。もし書けたら、一ぺんにどつさり發表する。それまでは、相變らず、隨筆を書いたり、飜譯などをやつてゐるより仕樣があるまいと思つてゐる。まあ、ひとつ本當の仕事は秋まで待つてゐて貰はう。

この春には、その代り、本を二三册出す。ついでだから本の廣告をしてしまへ。

「狐の手套」――これは僕のこれまで書いた隨筆と小品とを何もかもごつちやに集めたもの。「狐の手套」といふのは、ヂギタリスの異名ださうだが、或るとき何でもない隨筆を書いて氣まぐれにそんな題をくつつけたのだが、ちよつとファンタスチックな味があつて、僕の隨筆集などの題には惡くなからうと思つて、それをそのまま採つて表題とした。さういつた風のファンテジイをはじめ、いくぶん骨を折つて書いたエッセイから、二三枚ぐらゐの何でもないものも、わざと棄てずに、殆んど全部採録した。それらの中から僕の日常生活の詩みたいなものが感ぜられれば、それでいいのである。ポケットにちよつと入れるやうな、小さな本にして貰ふつもりだ。

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