小坂部姫
本文約99,100字 ・ 読了時間 約199分
あらすじ(AIが作成しました)
双ヶ岡の庵に住む吉田兼好を、都の武家の娘・小坂部が訪ねる。娘は自身の恋の悩みや情念について問いかけ、兼好から教えを請う。その後、娘は塩冶の一家を救うために奔走し、その過程で本庄采女への密かな想いを兄・師冬に打ち明けるも、政略結婚を強いられる。時は流れ、姫山の城に現れる謎の女と天主閣の怪異が権力者たちを翻弄する。本作は、歴史的背景を交えながら、妖しい力を持つ小坂部姫と、その呪いが徳川の泰平を支えたという伝説を描く。
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双ヶ岡
一
「物申う、案内申う。あるじの御坊おわすか。」
うす物の被衣の上に檜木笠を深くした上ふうの若い女が草ぶかい庵の前にたたずんで、低い優しい声で案内を求めた。南朝の暦応三年も秋ふけて、女の笠の褄をすべる夕日のうすい影が、かれの長い袂にまつわる芒の白い穂を冷たそうに照らしていた。
一度呼んでも、内では答えがなかった。二度、三度、かれは呼びつづけながら竹の戸をほとほとと軽く叩くと、やがて内では眠そうな声がきこえた。
「案内は誰じゃ。」
「これは都の者でござりまする。御庵主に是非にお目にかからいでは叶わぬ用事ばしござりまして……。ここお明け下され。」
内ではうるさそうに黙っているので、女はかさねて声をかけた。
「お暇は取らせませぬ。およそ一、それもかなわずば半でも……。まげて御対面を折り入って頼みまする。御庵主、あるじの御坊……。」
「なんの用か知らぬが、ここは世捨てびとの庵じゃ。女子などのたずねて来るべき宿ではござらぬ。」
あるじはあくまでも情ないのを、外の女は強情に押し返して言った。
「唯今も申した通り、是非にお目にかからねば叶わぬ用事ばしあればこそ、供をも連れずに忍んでまいりました。とにもかくにもここ明けて……。頼みます、頼みまする。」
女に似合わぬ根強さに、内でも少し根負けがしたらしい。勝手にしろといわないばかりに、あくびまじりで答えた。
「それほどの用ばしあらば、その門はとざしてない筈じゃ。勝手にあけて通られい。」
「では、ごめんくだされ。」