TRENDIA CLASSIC

白痴の知恵

小酒井不木

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魚釣り

塚原俊夫君が、魚釣りを好むことは、これまでまだ一度も皆さんに紹介しませんでしたが、俊夫君は、かつて動物学を修めたとき、ことに魚類の解剖と生理とに興味を持ちまして、それと同時に魚釣りも大好きになったのであります。

近頃では、むずかしい事件を依頼されると、わざわざ魚釣りに出かけて考えをまとめることもありましたが、多くの場合は、半日か一日を面白く遊んで頭脳を休めるために、魚釣りに出かけるのでした。

魚釣りの場所は、言うまでもなく東京の郊外ですが、これという決まった所へは行きませんでした。時としては二里も三里も離れたところへ行くことがありまして、いつの場合にも私がそのお供を仰せつかったことは申すまでもありません。私も小さい時分から魚釣りが好きですから、いつも喜んでお供をしました。

ある日、私たちは、久しぶりに、東京府下××村の方面へ鮒釣りに出かけました。それは柿の実がようやく色づきかけた十月なかばの、小春日和ともいうべき暖かい日でして、私たちは午後の陽光を浴びながら、釣り竿を担いで色々の話に笑い興じ、元気のよい歩調で野道を歩いてゆきました。

すると先方から一人の巡査が佩剣を光らせ、今一人洋服を着た紳士と連れ立ってこちらへ歩いてきましたが、洋服の紳士は私たちを見るなり、にこりと笑って、

「やあ、俊夫君じゃないか?」

と言いました。見るとそれは「Pのおじさん」すなわち警視庁の小田刑事です。

「こりゃ、よい所で逢った」

と小田さんは立ちどまって言葉を続けました。

「実は、今日これから君のところを訪ねようと思ったんだ」

こう言ってそばの巡査を顧みて、何やら小声で相談し、さらに俊夫君に向かって言いました。

「実はこの村に殺人事件が起こって、有力な犯人と目星をつけていた男を逮捕してみると、それがどうやら犯人ではなさそうなので、みんなが困ってしまったんだ。君一つ、働いてくれないか?」

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