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TORENDIA

按摩

本文約3,800字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

郊外の冬の夜、老按摩は煙草を吸い続ける男の肩を揉みながら、かつて犯した人殺しと、その後の凄惨なモルヒネ中毒との闘いを語り始める。恋敵を殺害した際に右の眼に返り血を浴びた男は、激痛とモルヒネの魔力に囚われ、自ら眼に注射針を突き立てるという狂気的な経験を経て全盲となったと告白する。男が恐怖に戦く中、按摩は語り終えると、煙草をやめさせるための作り話であったと笑い、闇の中へと去っていく。

小酒井不木

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🎧 按摩 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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コホン、コホンと老按摩は彼の肩を揉みながら、彼の吸う煙草の煙にむせんで顔をしかめた。少し仰向き加減に、首と右肩との角度を六十度ぐらいにして居るところを見ると、生れつきの盲人であるらしい。

郊外の冬の夜は静である。

「旦那はずいぶん煙草ずきですねえ。三十分たたぬうちに十本あまりも召し上ったようですねえ」

と、彼は狡猾そうな笑いを浮べて言った。

「うむ。俺はニコチン中毒にかかったんで、身体中の肉がこわばってどうにもならぬから、按摩が通るたびに呼びこまずには居れんのだ。何とかしてこのニコチン中毒は治らぬものかなあ」と彼は中年のニコチン中毒患者に特有な蒼白い顔をして、でも巻煙草を口から離さずに言った。

「そりゃ旦那、眼をつぶすに限りますよ」

「ええッ? 何?」と彼は、わが耳を疑うかのように、暫らく巻煙草を口から離して按摩の返答を待った。

「両方の眼をつぶして盲人になるんですよ。眼をつぶせば、あの恐しいモルヒネ中毒さえなおるのですもの、ニコチン中毒ぐらいは訳もなくなおると思うのです」

彼は背筋にひやりとするような感じを起した。

「お前はその経験があるとでもいうのか?」とたずねた彼の声は、心もち顫えて居た。

「そうですよ。実は私の眼も、むかしは一人前に見えたんですが、ふとしたことからモルヒネ中毒にかかって、あげくの果に、眼をつぶすことになりましたが、眼が見えなくなると、不思議にもモルヒネ中毒はけろりとなおりましたよ」

「ふむ、妙な話だなあ。どうしてモルヒネなんか嚥む気になったんだい?」と彼は聊か好奇心に駆られて、どんよりして居た眼を輝かした。

「さあ、それをきかれると困るんですけれど……」

「いや、話してくれよ」と、彼は吸いさしの煙草を火鉢の灰の中へ突きさした。

按摩はにやり笑った。

「大ぶ乗気になりましたねえ。ええ、もう、白状してもかまわぬ時ですから、思い切って御話ししましょう。実はねえ旦那、私は若い時に人殺しをしたんです」

彼はぎくりとした。

「ははは、旦那、少し肩の肉がかたくなりましたねえ。なに、そんなにびっくりなさることではありませんよ。今じゃ私もおとなしい人間です。まあ私のいうことをお聞き下さい」

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