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TORENDIA

クロオデルの「能」

本文約2,600字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

ポオル・クロオデルの小論文「能」を収める本書は、舞臺構成や囃子、地謠の役割といった能の各要素を詳細に解説する。ワキとシテの役割分担や、シテが面をつけ異界からの使者として現れる様、そして演者の所作や扇の動きに宿る象徴的な意味を論じる。能を「劇とは何事かが到来するものであり、能とは何びとかが到来するものである」と定義し、夢幻劇としての特異な美学や演者の動作が持つ深い精神性を独自の視点で考察する。

堀辰雄

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🎧 クロオデルの「能」 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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ポオル・クロオデルが日本に滯在中に書いた「日のもとの黒鳥」(L'Oiseau Noir dans le Soleil Levant)といふ本も、ときどき取り出して見てゐる本の一つである。この本の題名に使はれてゐる何か象徴的な感じの黒鳥といふのは、實はクロオデルの洒落なのださうだが、そんなところもなかなか好ましい。いろいろ好い論文や小品が集められてゐるが、僕が屡この小さな本を手にすることのあるのは、大抵はそのなかの「能」といふ小論文を讀みかへすためである。

「劇とは何事かが到來するものであり、能とは何びとかが到來するものである」といふ彼らしい莊重な定義をいきなり冒頭に置いてから、クロオデルは、先づ、橋懸りと本舞臺とからなる舞臺の説明から始め、それから能の音樂――囃子と地謠と――を紹介する。それらの囃子の中で、あの哀調に充ちた笛を「過ぎゆく時間の我々の耳に對するときをりの轉調、演者の背後での時間と瞬間との對話」であると言つてゐるなどは面白い。又、地謠――これは、ギリシヤ式の合唱(Le Chur)と云ふ言葉を使つてゐるが――は筋には關與せずに、單にそれに非人格的な註釋をつけ加へるものだと紹介してゐる。それは過去を語り、風景を敍し、イデエを展開させ、登場人物を説明し、詩又は歌曲によつて應答する。「それは物語る彫像の傍らにうづくまつたまま、夢み、私語するのである。」

さて、次に登場人物が説明されてゐる。それは二人きりである、即ちワキとシテである。そのいづれも一人か數人のツレを伴つてゐることもあり、又、ゐないこともある。

ワキは凝視し、待ちうけてゐる者である。彼は決して面をかぶらない。彼は普通の人間なのである。

舞臺はワキの出によつて、靜かに始まる。正面までしづしづと出てきたワキは、我々に向つて、名乘りを上げる。例へば、諸國行脚の僧などである。それから彼はワキ座につく。そして橋がかりの方へ目を据ゑて、彼は待つてゐる。

彼が待つてゐる、と何びとかが現はれてくるのである。

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