TRENDIA CLASSIC

箕輪の心中

岡本綺堂

1 / 35

登場人物 藤枝外記

外記の妹お縫

吉田五郎三郎

用人堀部三左衞門

中間角助

菩提寺の僧

百姓十吉

十吉の母お時

村のむすめお米

大菱屋綾衣

新造綾鶴

若い者喜介

ほかに花見の男女 茶屋娘 眼かづら賣

小坊主 若侍 水屋 燈籠屋 新内語

廓の者 盆唄の娘子供など

[#改ページ]

第一幕

第一場

向島の木母寺。平舞臺の下手へよせて、藁ぶき屋根の茶店あり。軒にあづま屋といふ行燈をかけ、門口に木振よき柳の立木あり。よきところに床几二脚ほどならべてあり。所々に櫻の立木、花盛りの體なり。正面には木母寺の境内を見る。

(熊藏、半次、職人のこしらへにて、眼かづらをかけて、酒樽を持ち、ほかに娘三人、おなじく花見のこしらへにて、いづれも茶店の床几に腰をかけてゐる。外にも花見の男女大ぜい、思ひ/\のこしらへにて立ちかかりゐる。天明五年三月十五日、梅若の供養にて双盤念佛の音きこゆ。)

熊藏  おい、おい。姐さん。茶でも湯でも早くたのむぜ。醉醒めのせゐか、喉が渇いてならねえ。 半次  ほんたうにこゝらは田舍だぜ。花時にやあ些と氣の利いたのを置けばいゝのに……。おい、おい、姐さん。大急ぎだよ。 茶屋女 はい。はい。 (茶店の中より茶屋女二人は赤い襷をかけ、土瓶、茶碗、さくら餅など盆にのせて持ち出づ。)

女甲  どうもこみ合つて居りますもんですから、つい/\遲くなりました。 女乙  まあ、ゆつくりとお休みなすつて下さいまし。 熊藏  あんまりゆつくりしてゐると、日が暮れてしまはあ。なあ、半次。 半次  ひと休みしたら、早く梅若へおまゐりをして來よう。 (みな/\捨臺詞にて茶を飮む。奧にて双盤の音きこゆ。花見の男女は奧を見る。)

男 それ、お念佛がはじまるぜ。 女 早く行きませうよ。 (男女大ぜいはわや/\云ひながら境内に入る。)

娘一  もうお念佛が始まると云ふから、わたし達も早く行かうぢやありませんか。 熊藏  違えねえ。どれ、出かけべえか。おい、姐さん。お茶代はこゝへ置くよ。 女甲  毎度ありがたうございます。 (熊藏と半次は立たんとしてよろ/\する。)

岡本綺堂の他の作品