登場人物 大泉伴左衞門
千島雄之助
深堀平九郎
津村彌平次
本庄新吾
犬塚段八
三上郡藏
山杉甚作
備前屋長七
下總屋義平
義平の母おかめ
大泉の妹お千代
大泉の女中およし
同じく おみつ
下總屋の若い者時助
同じく 勘八
下總屋の小僧仙吉
下總屋の女中おとよ
番太郎 權兵衞
與力井口金太夫
同心野澤喜十郎
町の娘 おもと
同じく おきん
ほかに同心。捕手。町の男。女、子供など
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第一幕
一
江戸の末期、文久二年十一月下旬の午後。
芝の田町、軍學劍術の指南大泉伴左衞門の道場。正面の上のかたに寄せて、一段高いところに疊を敷き手あぶりの火鉢を置き、うしろは大形の襖。平舞臺の正面は板羽目にて、面、籠手、木太刀、竹刀、薙刀などの稽古道具をかけ、下のかたには杉戸の出入口がある。大きい角火鉢には大藥罐をかけ、そのそばには炭取りと茶碗などもある。
(深堀平九郎、廿七八歳、先生の代稽古をしてゐる體、稽古着に胴と籠手を着けただけにて袴をはき、うしろ鉢卷きをして竹刀を持ち、高いところに腰をかけて見物してゐる。大火鉢のまはりには門弟の津村彌平次、犬塚段八、三上郡藏の三人が稽古を待つ姿にて、烟草をのんでゐる。そのなかで彌平次だけは面と胴をつけてゐる。道場のまん中には本庄新吾と刀屋のせがれ長七とが道具をつけて稽古をしてゐる。幕あくと二人は激しく撃ち合ひ、新吾はだん/\に危くなる。)
彌平次 (のび上る。)これはいけない。本庄の方があぶないぞ。 段八 町人に撃ち込まれるとは意氣地のない奴だな。 郡藏 まつたくあぶない。これ、本庄。しつかりしろ、しつかりしろ。 (そのうちに新吾は籠手を打たれて竹刀を落せば、長七は附入つて更に胴を撃つ。)
新吾 まゐつた。 平九郎 や、見事だ、見事だ。長七、貴公は此頃めつきりと上達したぞ。 長七 ありがたうございます。 (新吾と長七は面を取る。)