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TORENDIA

砧

本文約720字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

謡の「砧」を題材に、元禄から享保頃の武家の妻女を作者が描く絵画制作の経緯と着想を綴る。九州芦屋の妻は、三年もの間都に上ったまま帰らぬ夫を待ち侘びる。夫の帰国が近いと伝え聞いた妻は、遠方の夫を案じて砧を打つという古い故事に触れ、自身も夫への想いを込めて砧を打つ決意をする。作者は、秋の夜に月を仰ぎ、夫を想いながら砧を打とうとする妻の姿を、肖像や仏像のような心持ちで描き出す様子を紹介する。

上村松園

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🎧 砧 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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謡の「砧」に取材したものですが、章句の中には格別に時代が決定されていませんので、私の自由に徳川時代元禄から享保頃迄の人物にこれを表現してみました。最初は横物にして腰元の夕霧も描くつもりでしたが、寸法が制限されてますのでこの構図になりましたが縦七尺七寸、横四尺あります。

九州芦屋の里に家柄のある武士があり、訴訟事があって都に上ったが、かりそめの旅が三年という月日を数え妻は淋しく夫の帰りを待ち詫びていたところが、三年目の秋、夫に仕えて都に上った腰元の夕霧が帰国して夫の帰る日の近いことを喜ばしくも報じる。この話の最中に何処からともなく物音が聞えてくる。「あの音は何か」という妻女の問いに夕霧はあれこそは賎が女の打つ砧の音だと告げ、蘇武が胡国にさすらえていた折、故国にあるその妻が寒暑につけても夫の身を案じつつ打った砧の音が遠く万里を隔てた夫の枕上に響いたという故事を話して聞かす。

この話を聞いて妻はそれでは私も砧を打ってみようという。夕霧は、一旦は良家の女人の業でないと止めるが、その熱心さにひかされて砧を部屋の中にしつらえ二人で互に打つというのが謡「砧」の筋ですが、左の章句が良くこの情景を現わしています。

「いざいざ砧を打たんとて馴れし襖の床の上、涙かたしき狭筵に思いをのぶる便りぞと夕ぎり立寄り主従とともに、恨みの砧打つとかや、衣に落つる松の声/\、夜寒を風やしらすらん」

秋酣の、折しも円らかなる月のさし出づるころで都にある夫を想いながら空の一角を仰いで月を見、これから砧を打とうというところの妻女を、肖像のような又仏像のような気持で描いて見たものです。砧は黒漆が塗ってあるもので、灯台の蝋燭の灯のゆらぎに動きを齎してあります。

(昭和十三年)

完

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