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TORENDIA

慶応義塾学生諸氏に告ぐ

本文約4,100字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

教育の目的は教師を育成することではなく、実業者を輩出することにあると説く。維新後、知識を得た学者は殖産に不適当で官途や教育に偏る一方、西洋では教育が実業の成功に結びついている現状を指摘する。教育が世俗から離れた仙境の如き営みとなる弊害を批判し、慶応義塾は実学を重んじ、学生が卒業後、即座に工商社会で独立活動し一身一家の富を築けるよう、実生活に根ざした教育法へさらなる刷新を図る旨を宣言する。

福沢諭吉

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🎧 慶応義塾学生諸氏に告ぐ / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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左の一編は、去月廿三日、府下芝区三田慶応義塾邸内演説館において、同塾生褒賞試文披露の節、福沢先生の演説を筆記したるものなり。

余かつていえることあり。養蚕の目的は蚕卵紙を作るにあらずして糸を作るにあり、教育の目的は教師を作るにあらずして実業者を作るにあり、と。今、この意味をおしひろめて申さんに、そもそも我が開国の初より維新後にいたるまで、天下の人心、皆西洋の文明を悦びて、これに移らんとするに急なれば、人を求むることもまた急にして、いやしくも横文字読む人とあれば、その学芸の種類を問わず、その人物のいかんにかかわらず、これを用いたれども、限なきの用に供するに限あるの人をもってす、もとより引足るべきにあらず。かつその時の学者なるものは、何学を学びたる何学士と申すわけにもあらずして、実際にのぞみて知らざる事も多ければ、これにては行くすえ頼母しからずとて、ここにおいてか教育の説起り、新たに学者を作り出ださんことに熱心して、朝野ともに人を教うるに忙わしく、維新以来十数年の間、かつて少しも怠ることなし。

当初の考には、我が日本国の不文不明なるは教育のあまねからざるがためのみ、教育さえ行届けば文明富強は日を期していたすべし、との胸算にてありしが、さて今日にいたりて実際の模様を見るに、教育はなかなかよく行きとどきて字を知る者も多く、一芸一能に達したる専門の学者も少なからずして、まずもって前年の所望はやや達したる姿なれども、これがために国の文明富強をいたしたるの証拠とては、はなはだ少なきが如し。その事情を語るには言長ければ、手近く一例をあげて示さんに、一国の富は一個人の富の集まりたるものなりとの事は、争うべからざるものならん。

さればかの文明富強の根本たる教育を受けたる者が、国を富ますためには、まずもって自身の富をいたすの必要なるは申すまでもなきことなるに、世間の実際はこれに反し、およそ我が国の学者として大いに資産を作り出だしたるものを見ず。いかなる専門の一芸一能を手に入れたる人物にても、一事一業を起して富をいたしたるの談を聞かず。

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