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TORENDIA

安吾新日本風土記

本文約17,300字 ・ 読了時間 約35分

あらすじ(AIが作成しました)

東京の濃霧から始まった旅路の果てに、日向の高千穂を訪れた著者が、この地の風土や生活を綴る。天孫降臨の神話が伝わる一方で、温和で素直な人々が伝統的な夜神楽や熊襲踊りを継承し、古くから漂泊の遊芸人として朝廷に奉仕してきた歴史を考察する。また、椎葉の山中で営まれる独特の風習や歌に触れつつ、土地の神や日常の交流を通して、日本の歴史と人々の気質、そして山中の情景を追想する紀行である。

坂口安吾

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私たちが羽田をたつ日、東京は濃霧であった。私が東京で経験した最も深い霧。半マイルの視界がないと飛行機の離着陸ができないそうで、八時にでるはずの福岡直行便が十二時ちかくようやく飛びたった。しかし乗客一同出発をうながしたり怒ったりする者が一人もいなかったのはイノチの問題だからやむをえない。むろん私も怒らない。待合室で待っていられる私たちはむしろ幸福なのだ。着陸できない飛行機が何時間も上空を旋回している。さぞ辛いだろうなと思った。私はこのDC6型という飛行機で東京上空を旋回し、たった十分間で乗客全員がのびた経験があるのだ。半数以上ゲロをはいたものだった。

出発がおくれたので、宮崎行きの旅客機に乗りおくれ、汽車にもおくれて、その日は小倉で一泊しなければならなかった。こんな旅もまた面白いものだ。

私がこの仕事の第一回目に日向を選んだのは、旧友の中村地平君が宮崎の図書館長をしているからだ。本も借りられるし、土地の話も教えてもらえるし、こんな便利なことはないというわけで、一も二もなく日向にきめた。それに冬の旅は南に限る。

宮崎は小ヂンマリした明るい町。非常に道路の幅がひろいけれども、小ヂンマリという以外に言いようがないほど可愛いい町だ。私が小学生のころ、県庁所在地で市でないのが二つあった。宮崎と浦和だ。いまもってそんな感じの町。十二月中旬だったが、町の中に冬の気配が何一ツ見られない。図書館の前に県庁があった。県庁の庭に三百人ほどの自由労働者が赤旗をふってデモをやってる。神話の国へきていきなりデモにぶつかったのにはおどろいたが、さすがにノンビリしたもので、警官なぞ一名も出動していない。殺気だったところがなくて、南国はデモも明るかった。

日向は天孫降臨の伝説の地。しかし日向の高千穂町を主張する宮崎県と霧島山の高千穂峯を主張する鹿児島県とが高天原の本家争いをしているのでも分るように、伝説を史実化しようとするのが無理だ。伝説はこれを伝説だけのものとして受けとるのが健全だ。先祖の残した文化的遺産として軽く受けとれば足るのである。

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