カンナとオンナ
本文約1,800字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
ひぐらしの鳴く夏の日に、語り手である料理人が、店に訪れた詩人とともに料理を囲む様子を描く。語り手は、上等なカンナでかつおぶしを削るという自身の贅沢に見えるこだわりが、実は経済的で優れた料理法であることを説く。これを聞いた詩人は、料理の本質や道具の使い方について感銘を受け、ついには女性とカンナを重ねて冗談を飛ばす。食と道具、そして芸術への独自の哲学を綴る随筆。
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ひぐらしの鳴き声が涼しい。
わたしは、わたしのテーブルの前に坐って料理をし、客はわたしのテーブルの前に坐っていた。
わたしは、料理をいつも自分で作りつつ食べ、客にもすすめる。
客は詩人であった。
どんな詩をつくるのかわたしは知らぬ。その詩人も、見せたことはないし、わたしも、見せてくれといったことはない。詩人だか、死人だか、わたしは知らぬ。ともかくも、詩人であるということだ。
わたしはビールを飲む。ビールだけ飲む。風呂から上がって、まだ、体に湯気が上がっている中にビールを飲むのはうまいものだ。
わたしの坐っているうしろには、紙を細く切って、それに、全国から集まった材料や、名産の名前が書いてある。新しく送られた品は、すぐ、この細い紙に書き入れられて張られる。だから、それを見ると、いま、どんなものがあるか、なにが品切れかということが、すぐに分るようにしてある。
詩人は、それを念入りに読んでいる。
詩をよむつもりでよんでいるのかもしれない。この男の詩はしらないが、詩人だって、食事はするだろう。いや、非常によく分るはずだ。鳥や、花の心が詩人には分るはずだから……。
わたしはビールを飲む。詩人はウイスキーを飲んでいる。
わたしは、出来上がった料理にかけるため、かつおぶしをけずる。カンナを使ってけずる。
詩人は、目を見張っていう。
「先生、ずい分、立派なカンナですね。まるで、大工が使うような、カンナですね」
「これは、大工たちが使うカンナの中でのいちばん上等だよ」
「へえ、もったいないですね」
「どうしてもったいないのだ」
わたしは、不思議そうに詩人を見た。
詩人も、上等のカンナでかつおぶしをけずるわたしを不思議そうにみている。
「先生、そんな立派なカンナなら、なにも、かつおぶしをおけずりにならなくとも、立派に、大工道具につかえるではありませんか」
「大工道具に、立派に使えるほどの上等だから、かつおぶしがけずれるんだよ」
しばらくわたしの手許を見ていた詩人はつくづくといった。
「先生の、料理がおいしいのは、先生が、ぜいたくをしているからですよ。きっと、そうですよ、やっぱり、料理は、金をかけないとダメですね」