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TORENDIA

わが幼時の美感

本文約2,800字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

極めて幼き頃より客観的な美に敏感であった著者が、記憶に残る幼少期の色彩への執着や、猛火に際して感じた奇妙な美感、そして生家の庭に咲く草花と親しんだ日々を綴る随筆である。四季折々に庭園や畑で咲き誇る植物を詳細に写し取り、貧しい生活環境の中で唯一無二の慰めであった自然との交流を描く。野辺の草花に囲まれて育った幼時の原風景を回顧し、その記憶の中に宿る不思議な快感と植物への深い愛着を浮かび上がらせる作品である。

正岡子規

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🎧 わが幼時の美感 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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極めて幼き時の美はただ色にありて形にあらず、まして位置、配合、技術などそのほかの高尚なる複雑なる美は固より解すべくもあらず。その色すらなべての者は感ぜず、アツプ(美麗)と嬉しがらるるは必ず赤き花やかなる色に限りたるが如し。乳呑子のともし火を見て無邪気なる笑顔をつくりたる、四つ五つの子が隣の伯母さんに見せんとていと嬉しがる木履の鼻緒、唐縮緬の帯、いづれ赤ならざるはあらず。こころみにおもちや屋の前に立ちて赤のまじらぬ者は何ぞと見よ。白毛黒髪の馬のおもちやにさへ赤き台の車はつけてあるべし。

わが幼き時の美の感じは如何にやと思ひめぐらすに五、六歳以下の事は記憶に残るべき道理なし。われが三つの時、母はわれをつれて十町ばかり隔りたる実家に行きしが、一夜はそこに宿らんとてやや寐入りし頃、ほうほうと呼びて外を通る声身に入みて夢覚めたり。(ほうほうとは火事の時に呼ぶ声なり)すは火事よとて起き出でて見るに火の手は未申に当りて盛んに燃えのぼれり。我家の方角なれば、気遣しとてわれを負ひながら急ぎ帰りしが、我が住む横町へ曲らんとする瞬間、思ひがけなくも猛烈なる火は我家を焼きつつありと見るや母は足すくみて一歩も動かず。その時背に負はれたるわれは、風に吹き捲くの偉大なる美に浮かれて、バイバイ(提灯のこと)バイバイと躍り上りて喜びたり、と母は語りたまひき。あくまで惨酷なる猛火に対する美感は如何にありけんこの時以後再び感ずる能はず。年長じて後、イギリスの小説(リツトンのゴドルフインにやありけん)を読む。読みてまさに終らんとす、主人公志を世に得ず失望して故郷に帰る、故郷漸く近くして時、夜に入るふと彼方を望みて、丘の上に聳えし宏壮なる我家の今や猛火に包まれんとするを見る、の一段に到りて、心臓は忽ち鼓動を高め、悲哀は胸に満ち、主人公の末路を憐むと共に、母の昔話を思ひ出ださざるを得ざりき。しかれどもなほ細かに考ふれば、荒村の丘の上に、高き大きなる建物が火を吐きつつある光景は、いくばくかバイバイ的美を想ひ起さしむる者なきに非ず。

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