ある職工の手記
本文約21,600字 ・ 読了時間 約44分
あらすじ(AIが作成しました)
継母に冷遇され、父との関係にも苦しむ少年が、家を出て佐世保の造船所へと向かう。当時憧れの職業であった職工として働き始めるも、厳しい生活や人間関係の中で葛藤する。ある時、長崎を訪ねてきた父と再会し、その不器用な愛情に触れて一度は心を動かされるが、自身の目覚めとともに職工仲間との将来を選び、新たな道へと踏み出すまでを描く。
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私の家はどういふわけか代々続いて継母の為に内輪がごたくさした。代々と云つても私は自分の生れない以前のことは知らぬが、父の時代が既にさうであつた。父は早く実母に死なれて継母にかゝつた。その継母に幾人もの男の子が出来て、父は我が家にゐるのが面白くなくなつて遂に家を飛び出した。父は長男であつたが亡父の遺産を満足に受けつぐことも出来なかつた。それは継母の奸策の為めであつた。
私も丁度父と同じやうな行き方になつたと云ふのは何と云ふいんねんだらう。私は長男であつた。継母には二人の女の子が出来た。その女の子が私よりは大事がられて育つのを私は平気で見てゐられなかつた。質のよくない継母は私のさうした妹に対する嫉妬的な心理を知れば知るほど、私になほさらそれを見せつけた。尤も一年中そんなことばかりはなかつたが、兎に角私は家にゐるのが面白くなかつた。それに父までが継母と同類のやうにさへ私には見え出したのである。一年一年成長して行くだけ私の継母に対する観察は深刻になり、皮肉になり、父に対しては冷笑的になつた。同時に継母の私に対する憎しみもあくどく、そして辛辣になつた。父もそれに随従した。私の父は少し後妻に巻かれる方であつた。私と云ふ先妻の長男を家庭内で冷遇することが少なからず後妻の気に叶ふので、父はさかんに私を冷遇して後妻に媚びる癖があつた。父は自からそれを気づいてゐたかどうかは知らぬが、私はその頃まだ十二三の少年であつたが、父の愚劣さを認めてゐた。