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TORENDIA

宝永噴火

本文約31,400字 ・ 読了時間 約63分

あらすじ(AIが作成しました)

社交夫人のS夫人は、禅僧・白隠の逸話集を読み、彼が修行中に富士と肉体的に融け合う神秘的な体験をしたことに激しい嫉妬を覚える。夫人は白隠の聖者としての伝記を執筆し、その異常な心境や求道の動機を追うことで、自分も世俗を超えた幸福や神秘へ触れようと試みる。読み終えた語り手もまた、その記述に触れたことで、富士に対する奇妙な魅惑と情熱に取り憑かれ、自身の体験を綴り始める。

岡本かの子

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今の世の中に、こういうことに異様な心響を覚え、飽かずその意識の何物たるかに探り入り、呆然自失のような生涯を送りつつあるのは、私一人であろうか。たぶん私一人であろう。確とそうならば、これは是非書き遺して置き度い。書くことによってせめて、共鳴者を、私のほか一人でも増して置き度い。寂しいが私はこれ以上は望むまい。

こういう序文が附加えられて、一冊の白隠伝の草稿が無理にわたくしの手許に預けられてある。それは隣のS夫人が書いたものだ。

夫人は娘時代に禅をすこしやったということだが、今は夫もあり子もあり、幸福な家庭の主婦と見られている。その上、世間にも社交夫人として華々しく打って出ている。

それは兎に角として、この草稿を「何故、自分の手許に置かれないのですか」と私が訊くと、「手許に置いとくとまた釣り込まれそうなので危くて危くて」という。そう言いながらS夫人は時々来て、頁を繰っている。私はしばらく勝手にさせて置いたが、ふと好奇心が湧いて或る日、その草稿を取上げて見た。なるほど不思議に思われる聖者の伝記だ。以下はそれ。

わたし(S夫人自身のこと)がこの聖者に、憎いほど激しい嫉妬を覚えて、その詮索に附き纏い始めたのは、この自分の部屋で聖者の逸話集を読んだときからだ。その主な章はざっとこうである。

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