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TORENDIA

道中一枚繪 その二

本文約4,100字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

亡き親友の妻であるお芳を訪ねるため、喜多八は彌次郎兵衞と共に静岡の鷹匠町へ向かう。再縁せず貞節を守りながら病身の舅を支える彼女の困窮した生活を目の当たりにした喜多八は、東京へ出張中という彼女に直接会うことは叶わなかったものの、その姿に思いを馳せる。翌朝、二人は富士を望む風景の中で、未亡人と家族の平穏を願いつつ、再び旅路へと歩みを進める様子を描く。

泉鏡太郎

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(彌次郎兵衞)や歸つて來た、べらぼうに疾いな、何うした。(喜多八)えゝ、車で行つて來たものですから。(彌次)其にしても馬鹿に疾いわ、汝が出掛けてから、見ねえ、未だ銚子が三本とは倒れねえ。第一、此姉さんを口説いて、其返事をきかねえ内だぜ。(女中)存じませんよ。(彌次)や、返事は其か、と額を撫でて、こりや鬱がせる、大に鬱ぐね、己も鬱ぐが喜多八、汝も恐しく鬱ぐぢやないか、何か、又内證でころが喰ひたさに、金子でも借に行つたのぢやないか、さもしい料簡は止せ、京都三條通一寸上る邊栗屋與太九郎以來道中で驕らせようとすると飛んだ目に逢ふ。

喜多八何となく樂まず。(喜多)否留守だつたんです。(彌次)フム、(喜多)實は其の東京を出る時から此の靜岡へ着いたら是非尋ねて見よう、久々で逢つて話したいと、樂みにして居たんです。

(彌次)はゝあ、大分執心と見える、別懇な人か。

(喜多)別懇な……何です、親友の細君なんです。

(彌次)何だ細君、細君なら女ぢやないか。

(喜多)實は女なんですが。喜多八は言ひ惡さう。

(彌次)此の野郎、と苦笑。(喜多)若い同士結婚をすると、間もなく私の親友は病氣で亡くなつたんです。其の細君と六十餘になる病身な父親とを殘して亡くなつたんです。勿論、財産といつてはない處へ、主人に死なれちや動きが取れません、細君の實家といふのは別に物持といふほどではありませんが、引取つて再縁をさせるに、別に差支はないのですから、年紀は少し容色は好し、一先づ離縁をと、度々申込んださうですけれど、今の世に珍しい。(彌次)はてな。(喜多)一度良人を持つた上は、何處までも操を守り通すと、これはまあ、思ひ合つた同志、然も若い内當座然う言ふのは別に不思議なこともありませんが、其の細君には未だ外に、自分が出ては便のない舅の世話を誰がしよう、見す/\翌日からの暮も覺束ないといふ條件があつたんです。(彌次)はてな、と膝を進めて殆ど無意識に差出す猪口に、女中も默つて酌をする。

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