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TORENDIA

婦人十一題

本文約3,800字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

各地で季節の移ろいを感じながら、それぞれの風情の中で生活する女性たちの姿を描く。正月のかるた会に集う装いの華やぎから、雪の夜の秘め事、川辺での船遊び、五月雨の山中で遭遇した不思議な出来事、夏の避暑地の情景、秋の野分や月夜の哀愁、そして初冬の冷ややかな水のほとりまで、四季折々の風景を背景に、女性たちが織りなす多様な情景を十一の題材を通してつづる短編集。

泉鏡太郎

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🎧 婦人十一題 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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一月

うまし、かるた會に急ぐ若き胸は、駒下駄も撒水に辷る。戀の歌を想ふにつけ、夕暮の線路さへ丸木橋の心地やすらむ。松を鳴らす電車の風に、春着の袖を引合す急き心も風情なり。やがてぞ、内賑に門のひそめく輪飾の大玄關より、絹足袋を輕く高廊下を行く。館の奧なる夫人の、常さへ白鼈甲に眞珠を鏤めたる毛留して、鶴の膚に、孔雀の裝にのみ馴れたるが、この玉の春を、分けて、と思ふに、いかに、端近の茶の室に居迎ふる姿を見れば、櫛卷の薄化粧、縞銘仙の半襟つきに、引掛帶して、入らつしやい。眞鍮の茶釜の白鳥、出居の柱に行燈掛けて、燈紅く、おでん燗酒、甘酒もあり。

――どツちが好いと言ふんですか――

――知らない――

二月

都なる父母は歸り給ひぬ。舅姑、知らぬ客許多あり。附添ふ侍女を羞らひに辭しつゝ、新婦の衣を解くにつれ、浴室颯と白妙なす、麗しき身とともに、山に、町に、廂に、積れる雪の影も映すなり。此時、われに返る心、しかも湯氣の裡に恍惚として、彼處に鼈甲の櫛笄の行方も覺えず、此處に亂箱の緋縮緬、我が手にさへ袖をこぼれて亂れたり。面、色染んぬ。姿見の俤は一重の花瓣薄紅に、乳を押へたる手は白くかさなり咲く、蘭湯に開きたる此の冬牡丹。蕊に刻めるは誰が名ぞ。其の文字金色に輝くまゝに、口渇き又耳熱す。高島田の前髮に冷き刃あり、窓を貫くは簾なす氷柱にこそ。カチリと音して折つて透かしぬ。人のもし窺はば、いと切めて血を迸らす匕首とや驚かん。新婦は唇に含みて微笑みぬ。思へ君……式九獻の盞よりして以來、初めて胸に通りたる甘く清き露なりしを。――見たのかい――いや、われ聞く。

三月

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