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TORENDIA

逢状

本文約1,200字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

祇園でかつて用いられた「逢状」は、客が名指しの芸妓や舞妓を呼ぶ際に茶屋から送る書状である。本書は、多様な趣向が凝らされた用紙の様相や、一流の芸妓にとってのステータスとしての役割、さらに教坊の変遷に伴う廃止に至るまでの歴史を綴る。著者自らが「逢状」を題材に詠んだ歌を紹介しつつ、遊里特有の風情や当時の情景、またこの習慣の起源に対する推察を交え、失われゆく京都の文化の一端を鮮やかに描き出す。

吉井勇

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🎧 逢状 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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祇園で今では見られなくなつたものに、「雑魚寝」のほかにもうひとつ「逢状」というものがある。

これは客が来た時に茶屋から名差しの芸妓や舞妓に出すものであつて、大体葉書大位の紙に、「××さまゆゑ直ぐさまお越しねがひ上げ候」という文句と茶屋の名とが印刷してあり、××というところに客の名前を書き、それに相手の名前を書いて、それぞれ芸妓や舞妓の屋形に届ける。そうするとそこの苧姆がそれをそれぞれの出先へ届けるのだが、客の方では出した数の何分の一位しか来ないのが分つているので、十枚も二十枚も書くものがある。それだから一流の芸妓や舞妓になると、襟元のところにはみ出す位多くの逢状を持つていて、それが一種の見得になるものだつた。

逢状は大抵日本紙に木版のものが多く、天地紅のものや、つなぎ団子、千鳥、桜、柳などの模様のあるものや、それぞれ茶屋に依つて趣向を凝らしたものを作つていたが、しまいには洋紙に活字で印刷したものや、或いは新奇を衒つて全部英語で書いたものや、祇園らしくないものも目に付くようになり、教坊の組織や制度の変遷につれて、こういつたものはもう時勢に合わないと見えて、何時の間にか廃止されるようなことになつてしまつた。

その当時の思い出として、私が「祇園歌集」につづいて出した「祇園双紙」という歌集の中には、「逢状」と題する歌が三首ほどある。いずれも今となつては汗顔至極のものであるが、この歌を作つた時は、まだ二十代だつたのだから、若さに免じてお目こぼしを願つて置く。

渡されてうれしと君の笑ふときわれ逢状とならましものを

仇びとの名ある逢状ちらと見てわれや切なきもの妬みする

或るときは古逢状を取り出しむかしの恋を泣くと云ふかな

この歌でも語つている通り、この「逢状」というものには、何か近松の世話浄瑠璃と相通ずるような情味があつて、事実酔つて懐から取り出される逢状に自分のさつき書いてやつたものがあつたりすると、別にわけのある女でもないのに、何だか馴染を重ねた仲であるような気がして、遊里の味がしんしんと身にしみ渡つて来るような、浮かれ男の心持になつて来る。

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