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TORENDIA

ある神主の話

本文約5,100字 ・ 読了時間 約11分

あらすじ(AIが作成しました)

漁師の勘作は、湖に住む人間ではない男と出会い、不思議な友情を育む。男は人間になることを望み、旅人や女を水に引き込もうとするが、勘作はその都度制止する。やがて男は神として祀られることになり、勘作を神主として招き入れる。勘作は指定された地で男の言葉通りに村人へ洪水の警告を伝え、災いから救ったことで、村人から信頼を得て神主として仕えるようになる。

田中貢太郎

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漁師の勘作はその日もすこしも漁がないので、好きな酒も飲まずに麦粥を啜って夕飯をすますと、地炉の前にぽつねんと坐って煙草を喫んでいた。

「あんなにおった鯉が何故獲れないかなあ、あの山の陰には一疋や二疋いないことはなかったが、一体どうしたんだろう」

その夜は生暖な晩であった。地炉に焚く榾の火が狭い荒屋の中を照らしていた。

「二尺位ある二疋の鯉……二尺位の鯉が二疋欲しいものだなあ」

勘作は村の豪家から二尺位ある鯉を二疋揃えて獲ってくれるなら、云うとおりの値で買ってやると注文せられているので、二三日前からその鯉を獲ろうとしているが、鯉は愚かろくろく雑魚も獲れなかった。

「網では獲れそうにもないから、明日は釣ってみようか、あの淵の傍で釣ってみてもいいな、釣るがよいかも知れないぞ」

勘作は酒の気がないので、もの足りなくてしかたがなかった。

「勘作さん家かな」

何人かが入って来た。漁師仲間の何人かが話しに来たろうと思って庭を見ると、色の白い小柄な男が来て立っていたが勘作には見覚えのない顔であった。

「お前さんは何人であったかな、俺はものおぼえが悪いから」

「お前さんは知らないかも判らない、私は近比この村へ来た者だから」

「そうか、それなら、これからおつきあいをしよう、さあ、おあがり」

「そんじゃ、あげてもらおうか」

小柄な男はそう云って地炉の傍へあがった。

「お前さん、国はどこだね」

「東の方だ、東の方からぶらぶらやって来たが、この辺はいい処だね、漁もあるだろう」

「もとはあったが、近比はめっきり無くなった」

「そうかなあ」

「それにこの二三日は、すこしもないので、今晩はすきな酒も廃めている」

「そうか、それはいかんなあ」

「二尺の鯉を二疋獲ってくれと、二三日前から頼まれて、この広い湖へ片っ端から網を入れているが、鯉は愚か、雑魚もろくろくかかりゃしない」

「そんなことは無い、私は近比来た者だが、それでも鯉の二疋や三疋は、買手を待たして置いても獲って来る」

勘作は出まかせなことを云う対手がおかしくてたまらなかった。彼は大声で笑いだした。

「お前さんが嘘と思うなら、私がこれから往って獲って来てやろう、網はどこにあるかな」

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