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TORENDIA

断酒片

本文約1,000字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

酒を止め体調と生活が整う中で、作者は自身の飲酒生活を振り返る。十余年来の習慣であった酒を絶ち、金銭的な負債を少しずつ整理しつつ、朝から晩まで真面目な顔で過ごす日々に潜む空虚感や、自身の過去の酔い振りを静かに省みる。酒という道楽を失い、客観的な視点から物事を見つめるしかない日常において、自身の心のあり方や思考の焦点をどのように定めるかを、断酒という体験を基に綴る。

牧野信一

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🎧 断酒片 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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止める止めるとこぼしながらうまくゆかないのが多くの飲酒者の通例であるが、止めようと思つたら飲まなければ好いのにと僕は思ひそんなことは口にもせず飲みつゞけてゐたところ急に具合が悪くなつたので止めて見たところ、一向僕には未練もない、性根は余り酒好きでもなかつたのか知ら、他人の酔つてゐるのを見ても白々としたもので、自分も酔つてゐた時はあんな風だつたのか! と思つても別段羨しくもなければ、後悔もなく、まこと変哲のなさの至りである。――左う口で云ふほどのきまりがつかぬのが、云はゞ酒の妙味であり、それは恰も返さうと念じながら容易に返済も適はぬ負債ある生活――即ち人生を髣髴する慨だなんて、僕のとりとめもない飲酒家であるところの友達がくだを巻いて行つたが、どうやらそんな人生なんて僕には想像されない気もするのであつた。酒を止めて見ると金なども要らず、別に欲しいものなんて一つもあるわけではないので、自然と負債なども少しづゝ片づいてゆくのである。人生観の一部に多少の変動は現れ、誰を見てもまた自分を見ても、朝から晩まで変哲もなく真面目さうであり、自分など斯んなに真面目さうな顔をして居るものゝ、心は案外それほど生真面目でもないのが、何だか折にふれては空々しくなつて来るのである。僕は十余年来、酒の他に何の道楽もなかつた。婦人の御機嫌をとるのは大変に苦手であり、随つて浮気ごゝろなど起したためしもなく、単に酔へば酔ふほど他人に迷惑と反感を与へる程度の酔つ払ひに過ぎなかつた。どう考へても、あれらの吾ながらの酔つ払ひ振りに吾ながら弁解の余地もなく、引いては自分の書いたものなどに関しても、どんな場合にも一言の抗弁の楯をとつたこともなかつた。第一僕は主張を持つたことがなかつたのだ。

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