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TORENDIA

放浪

本文約23,600字 ・ 読了時間 約48分

あらすじ(AIが作成しました)

継母に疎まれるなか、唯一の味方であった兄・文吉とともに過酷な境遇を生きる順平の半生を描く。父の死後、叔母を頼り大阪へ出た順平は、やがて極貧のなかで兄の非業の最期に直面し、自らも放浪の果てに刑務所での生活を送ることになる。出所後、かつて慕った美津子の面影を追い、かつての絆や希望を求めて大阪の街を彷徨う順平が、過去と向き合いながら自身の未来を見失い、父の面影を重ねて佇む姿を淡々と映し出す。

織田作之助

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一

身に覚えないとは言わさぬ、言うならば言うてみよ、大阪は二ツ井戸「まからんや」呉服店の番頭は現糞のわるい男、言うちゃわるいが人殺しであると、在所のお婆は順平にいいきかせた。

――「まからんや」は月に二度、疵ものやしみつきや、それから何じゃかや一杯呉服物を一反風呂敷にいれ、南海電車に乗り、岸和田で降りて二里の道あるいて六貫村へ着物売りに来ると、きまって現糞わるく雨が降って、雨男である。三年前にも来て雨を降らせた。よりによって順平のお母が産気づいて、例もは自転車に乗って来るべき産婆が雨降っているからとて傘さして高下駄はいてとぼ/\と辛気臭かった。それで手違うて順平は産れたけれど、母親はとられた。兄の文吉は月たらずゆえきつい難産であったけれど、その時ばかりは天気運が良くて……。

聴いて順平は何とも感じなかった。そんな年でもなく、寝床にはいって癖で足の親指と隣の指をこ擦り合わせていると、きまってこむら返りして痛く、またうっとりとした。度重なる内、下腹が引きつるような痛みに驚いたが、お婆は脱腸の気だとは感付かなかった。寝いると小便をした。お婆は粗相を押えるために夜もおち/\寝ず、濡れていると敲き起し、のう順平よ、良う聴きなはれや。そして意地わるい快感で声も震え、わりゃ継子やぞ。

泉北郡六貫村よろづや雑貨店の当主高峰康太郎はお婆の娘おむらと五年連れ添い、文吉、順平と二人の子までなしたる仲であったが、おむらが産で死ぬと、之倖いと後妻をいれた。之倖いとはひょっとすると後妻のおそでの方で、康太郎は評判の音無しい男で財産も少しはあった。兄の文吉は康太郎の姉聟の金造に養子に貰われたから良いが、弟の順平は乳飲子で可哀相だとお婆が引き取り、ミルクで育てゝいる。お婆が死ねば順平は行きどころが無いゆえ継母のいる家へ帰らねばならず、今にして寝小便を癒して置かねば所詮いじめられる。後妻には連子があり、おまけに康太郎の子供も産んで、男の子だ。

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